宇宙科学I (文科生)

銀河の誕生と進化

土井靖生

2019/12/27

今回のポイント

  • 銀河には大別して「渦巻き銀河」と「楕円銀河」がある
    • 「渦巻き銀河」は星を作る
    • 「楕円銀河」は星を作らない
  • 「渦巻き銀河」が衝突合体して「楕円銀河」となる
    • 衝突合体の際には「スターバースト銀河」となる
  • それぞれの銀河の中心に大質量ブラックホールが一つずつある

系外銀河 (galaxies)

星を産む銀河と星を産まなくなった銀河

渦巻き銀河 (spiral galaxies)

渦巻き銀河と楕円銀河の特徴

  • 渦巻き銀河
    • ガスが存在
    • 青い
    • 星形成活動あり
    • 楕円銀河よりやや軽い
  • 楕円銀河
    • ガスが少ない
    • 赤い
    • 星形成活動なし
    • 渦巻き銀河よりやや重い

赤い銀河と青い銀河

様々な銀河

小さな銀河

矮小銀河 (dwarf galaxies)

小さな銀河程金属量が少ない

  • 矮小銀河
    • ガスが存在(豊富)
    • これまでの星形成活動は少
    • 現在は活発な星形成活動の場合あり

活動的な銀河

星形成率と星質量の関係

スターバースト銀河 (M82)

大光度赤外銀河

大光度赤外銀河と銀河衝突

NASA/ESA/STScI/AURA (The Hubble Heritage Team) - ESA/Hubble Collaboration/University of Virginia,

Charlottesville, NRAO, Stony Brook University (A. Evans)/STScI (K. Noll)/Caltech (J. Westphal)

衝突銀河に於ける星形成

銀河の距離指標

「距離はしご」(Distance ladder)

  • \(\leq\) 数kpc: 年周視差(三角測量)
  • \(\leq\) 数Mpc: セファイド型変光星
  • \(\leq\) 数百Mpc: Ia型超新星
  • より遠方: 宇宙膨張による後退速度

Czerny, Beaton, Bejger, et al. 2018, Space Science Reviews, 214, #32

銀河の“赤方偏移”

  • 遠くの銀河ほど早い速度で遠ざかる
  • ドップラー効果により、光の波長が伸びる(“赤くなる”)
    • 赤方偏移 (cosmological redshift)


\[\begin{align} z &= \frac{観測される波長 - 静止系の波長}{静止系の波長} \\ 1 + z &= \frac{観測される波長}{静止系の波長} \simeq \frac{現在の宇宙の大きさ}{光が輻射された時の宇宙の大きさ} \end{align}\]

赤方偏移と天体の年齢との関係

銀河の進化と星形成史

銀河系とアンドロメダ銀河との衝突合体(再掲)

Visualization Credit: NASA, ESA, and F. Summers (STScI)

Simulation Credit: NASA, ESA, G. Besla (Columbia University), and R. van der Marel (STScI)

銀河の「ダウンサイジング」
(Galaxy “down-sizing”)

渦巻き銀河から楕円銀河への進化

  • 大きな銀河と小さな銀河の衝突 \(\to\) バルジ形成
    • 小さな銀河が大きな銀河に飲み込まれる
  • 大きな銀河同士の衝突 \(\to\) 楕円銀河へ進化

星形成史

銀河の星形成をストップさせる要因

  • 銀河の星生成率
    • 様々な年代の比較には単位体積辺りの星生成率を使う「星生成率密度」\(\mathrm{M}_{\odot}~\mathrm{yr}^{-1}~\mathrm{Mpc}^{-1}\)
  • 銀河の星生成率は宇宙が \(20億 \sim 30\) 億歳のころがピーク
    • 銀河合体が主因と考えられているが、まだ確定ではない
  • その後星生成率は減少
    • この頃の銀河質量の半分はガス。従って星を作る材料は十分ある筈。
    • 「星生成抑制問題」

SPICAによる観測

  • 星形成の盛んだったころの銀河を観測、星形成をトリガーする要因・ストップさせる要因を解明
  • 星間塵により隠された星形成銀河の観測 \(\to\) 赤外線
  • 日欧共同の赤外線天文衛星計画
  • 2030年ころの打ち上げを目指す
    • 欧州宇宙機構(ESA)の3つの候補のうちの1つ
    • 2021年に最終選抜予定

銀河のもう一つの活動性

M87中心核からのジェット

活動銀河中心核
(Active Galactic Nuclei: AGN)

  • 中心部に明るい「核」が存在
  • 高温で電離された原子の出す輝線の検出
  • 輝線の“幅”が広い \(\to\) ガスが激しく運動している
  • 3C273の輝線の“赤方偏移” \(z=0.185\) (約20億光年)
    • 銀河中心核の輝度 \(L=2\times 10^{12}\ \mathrm{L_\odot}\)

William C. Keel Chris Mihos

AGNのエネルギー源

  • 活動領域の大きさ:1光年以下
    • 3C48の例:数ヶ月程度の短い時間で明るさが変動
      \(\to\)領域の大きさは「数光月」以下
  • 狭い領域から\(\geq 10^{12}\ \mathrm{L_\odot}\)のエネルギーを放射
    \(\to\) ブラックホール (エネルギー変換効率\(10\sim 40\)%)
  • 質量降着率 \(\sim 1\ \mathrm{M_\odot\ yr^{-1}}\)
  • 輻射圧とブラックホールの引力との釣り合いで明るさの上限が決まる エディントン光度 (Eddington luminosity)
  • エディントン限界 (Eddington limit)
    • \(1\ \mathrm{M_\odot} \leftrightarrow 3\times10^4\ \mathrm{L_\odot}\)
    • \(3\times 10^7\ \mathrm{M_\odot} \leftrightarrow 1\times10^{12}\ \mathrm{L_\odot}\)

M87中心核の想像図

ブラックホール質量の「共進化」(co-evolution)

  • 銀河中心核のブラックホール質量と渦巻き銀河のバルジや楕円銀河の質量が相関
    • “Magorian relation”と呼ばれる
  • 銀河合体による中心核ブラックホールの合体成長?

活動銀河核からのジェット

  • 星形成をストップさせるもう一つの要因となり得る

より遠くの銀河

SDSSによる遠方銀河の観測

2007時点の最遠天体トップ10

10天体中9天体が日本人による論文(「すばる」の活躍)

Taniguchi 2007, Proceedings of the International Astronomical Union, 3(S250), 429-436

現在の遠方天体の記録

Wikipedia

HST, Keck, VLT, Subaruなど複数の望遠鏡を組合せて観測

Wikipedia

SUBARU/HSCによる遠方銀河団の観測

Higuchi R., et al., 2019, ApJ, 879, 28

ALMAによる遠方天体観測の可能性

河野孝太郎教授(東大天文センター)ホームページより

宇宙の大規模構造

SDSS

SUBARU/HSC

  • 重力レンズ効果を利用したダークマターの分布図

クレジット:国立天文台/東京大学

SUBARU/HSC darkmatter map

銀河形成モデル

渦巻き銀河の形成

小さな星の集まりから、大きな銀河へ

国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト提供

暗黒物質の必要性

  • 見えている物質だけでは構造形成に不足
  • 量に勝る暗黒物質がまず集まり、その中で通常の物質が冷却により構造を形成

計算機シミュレーション

IllustrisVogelsberger et al. (2014)