宇宙科学I (文科生)

星の誕生

土井靖生

2019/11/29

今回のポイント

  • 星は星間物質が「重力収縮」することにより生まれる
    • 星間ガス:“圧力”が支配
    • 星形成過程:“重力”が支配
  • 分子ガスが圧縮され、一部が「重力不安定」となって星形成が始まる
  • ガスが集まり、中心部で星が生まれる
    • 星の周りに外から更にガスが降り積り円盤を形成
      \(\to\)「原始惑星系円盤」
  • やがて外部からのガスの流入が終了
    • 中心の星により円盤は吹き払われ、惑星が残る

自己重力 (self-gravitation)

自己重力による構造形成

  • 星間ガスの諸相
    • 温度・密度により決定
    • \(P/k = nT\)
      \(\to\) ガスの圧力が重要
  • 星: 自己重力により構造を維持
  • 星形成過程
    • ガスの圧力 \(\to\) 自己重力へと主役が交代

重力不安定 (gravitational instability)

  • 物質分布の濃淡
    • 集中がある限界を超えると自己重力が内部の圧力を上回る
  • ジーンズ質量 (Jeans mass)
    • 圧力と重力の釣合い: \(\frac{dP}{dr} = -\frac{G \rho M_J}{r^2}\)
    • \(M_J \simeq 2~\mathrm{M_\odot} \left( \frac{c_s}{0.2~ \mathrm{km~s^{-1}}}\right)^3 \left( \frac{n}{10^3~\mathrm{cm^{-3}}}\right)^{-1/2}\)
  • 実際には自己重力・圧力に加え、乱流・回転による遠心力・磁場の釣合いで決まる
  • 分子雲内部の密度の濃い領域が数\(\mathrm{M_\odot}\)の塊に分裂し、収縮を始める
    \(\to\)星形成コア (pre-stellar core)

ガスの圧縮

冷たい中性ガス\(\to\)分子ガスの作り方(仮説)

  • WNM \(\to\) CNM \(\to\) cold molecular gas
    • 複数回の圧縮により密度を上げてやる必要
  • 超新星爆発やHII領域による圧縮が有力な候補

荷電粒子の磁力線への巻きつき (再掲)

プラズマ(荷電粒子)は磁力線に添ってしか動けない

\(\to\) プラズマの磁力線への“凍結”

磁場に沿ったガスの圧縮

  • 磁力線に垂直な圧縮
    \(\to\)ガスは圧縮されず
  • 磁力線に沿った圧縮
    \(\to\)濃い分子ガスの形成

  • 磁力線に垂直な筋状の構造


観測されるフィラメント構造

HIガス中の構造

星間物質“フィラメント”構造

星形成領域のフィラメント構造

磁力線に沿った質量降着

フィラメントと星形成活動の関係

“universal” \(\sim 0.1\)pc width of the filaments

\(>70\)% prestellar cores found in filaments

星形成領域
(star-formation regions)

星生成領域の例: へびつかい座

星生成領域の例: おうし座

おうし座分子雲中のYSOの分布

星形成過程 – 巨大分子雲 \(\to\) pre-stellar cores

  • 巨大分子雲のサイズ \(\sim 100\) pc
  • prestellar cores のサイズ \(<0.1\) pc

pre-stellar core の収縮

林トラック (Hayashi track)

  • 恒星の有効温度に最低値が存在
    • 約4000K
    • これ以下の温度では圧力が低く構造を維持出来ない
    • 「林の禁止領域 (Hayashi forbidden zone)」
  • 自己重力で収縮を始めたガス塊は林の禁止領域外まで温度上昇
    • 禁止領域に沿って収縮
    • HR図をほぼ垂直に下がる

林忠四郎 (1920–2010; 中野武宣氏の発表資料より引用)

林トラックと原始星の年齢

pre-stellar core の形成と質量分布

Herschel衛星によるわし座分子雲のコア–質量関数の観測

<span style='font-size:16px;position:relative;top:-50px'>$({\rm K\ddot{o}nyves}~et~al.~2010;~{\rm Andr\acute{e}}~et~al.~2010)$</span>

\(({\rm K\ddot{o}nyves}~et~al.~2010;~{\rm Andr\acute{e}}~et~al.~2010)\)

Young stellar objects (YSOs)

YSO class

(参考 角運動量の保存)

原始惑星系円盤
(proto-planetary disk; PPD)

星形成領域中のYSOs

オリオン座

オリオン Hubble image

オリオン Hubble image 拡大

Proplyd atlas

Proplyds description

原始惑星系円盤 (ESO VLT による画像)

ESO

双極分子流 (bipolar outflow)

Proplyds with Jets

双極分子流

The Boomerang Nebula


双極分子流ジェット

PN M2-9 (the Twin Jet Nebula)

hubble image

Hubble movie


電波干渉計による
高空間分解能の観測

望遠鏡サイズと分解能 (再掲)


  • \(\theta \simeq \frac{\lambda}{D}\) が最小分解能
    • \(\theta\): 最小分解能
    • \(D\): 望遠鏡の口径(直径)
    • \(\lambda\): 観測する光の波長
  • \(D\)が大きい方が分解能良い
  • \(\lambda\)が小さい方が分解能が良い


低温のガスを観測\(\to\)電波等より長い波長で観測
\(\to\)より大きな口径の望遠鏡が必要

大口径の電波望遠鏡

Effelsberg 100m 鏡

Arecibo 305m 鏡

中国 500m 望遠鏡


干渉計の原理

  • 大きな単一鏡を複数の小口径の鏡の寄せ集めとして表現
  • 小口径の望遠鏡(複数)で大口径と同等の分解能を実現
    • \(\theta \simeq \frac{\lambda}{D}\)
      • \(\theta\): 最小分解能
      • \(D\): 望遠鏡の口径(直径)
      • \(\lambda\): 観測する光の波長


  • 欠点:空間的に広がったパターンを検出出来ない

ALMA (Atacama Large Millimeter/
submillimeter Array)

  • 50台以上の望遠鏡を10km以上の範囲に配置
    • 口径:12mアンテナ54台
    • 口径:7mアンテナ12台

ALMA ALMA


原始惑星系円盤の構造

原始惑星系円盤 (ALMAによる画像)

HL Tau

TW Hya

HD97048

原始惑星系円盤 (ALMAによる画像)

原始惑星系円盤シミュレーション

[NASA’s Goddard Space Flight Center]

連星系形成

L1448 IRS3B

乱流分子雲コアにおける多重星形成のシミュレーション



星形成過程のまとめ

分子雲 \(\to\) pre-stellar cores \(\to\) YSOs

星形成過程

相/形態 温度
(K)
密度
\((\mathrm{cm}^{-3})\)
分布サイズ 形成要因
温かいHIガス \(10000\) \(0.1\) 銀河全体\((>1\mathrm{kpc})\)
冷たいHIガス \(100\) \(10\) 銀河全体\((>1\mathrm{kpc})\) 圧縮 圧力
分子ガス
(\(\mathrm{H}_2\)ガス)
\(100\)\(10\) \(10\)\(10^4\) \(<100\mathrm{pc}\) 星間塵
分子雲フィラメント \(10\) \(>10^4\) \(1\mathrm{pc} \times 0.1\mathrm{pc}\) \(圧縮+磁場\)
星形成コア \(10\) \(>10^4\) \(0.1\mathrm{pc}\)
\((10000\mathrm{au})\)
\(重力不安定\) 重力
原始星(YSO)+
原始惑星系円盤(PPD)
\(>100\) \(\gg 10^4\) \(<1000\mathrm{au}\) \(重力不安定\)