宇宙科学I (文科生)

土井靖生

2019/10/11

今回のポイント

  • 星の“見かけの明るさ”は「等級」により表す
    • 1等星は6等星の100倍の明るさ
  • 星までの距離は「年周視差」により測る
    • 単位は“パーセク”(pc)
    • 近くの星は遠くの星より明るく見える
      \(\to\)星までの距離を測定して“本当の明るさ”を知る
  • 星の“本当の明るさ”は星の重さにより決まる
    • 重い星ほど中心部が高温・高圧
      \(\to\)核融合が活発に進みエネルギーをより多く発生
    • 重い星ほど高温・大きい・明るい
    • 重い星ほど短命
  • つまり、星の一生は“星の重さ”で決まる

星の明るさ

ヒッパルコスによる定義

  • Hipparchus(\(I \pi \pi \alpha \rho \chi \omicron \zeta\); 紀元前190年ごろ - 紀元前120年ごろ) : 古代ギリシャの天文学者
  • 恒星を見かけの明るさに応じ1等星から6等星までの6段階に分類。
    • 1等星:夜空で最も明るい星々
    • 6等星:肉眼で見える最も暗い星々

現代の定義:等級 (stellar magnitudes)

  • ヒッパルコスの定義をほぼそのまま受け継ぐ
  • 1等星は6等星の100倍明るいとする
  • 1等級異なる毎に明るさは\(\sqrt[5]{100} = 2.51\)倍ずつ異なる

マグニチュード(等級)

  • 地震のマグニチュードと語義は同じ
  • 「対数スケール」である点に注意
  • 人間の感覚に近いスケール
    • ホン(音圧)も対数スケール

星の(見かけの)
明るさを決める要因I
星までの距離

星までの距離の測り方

天文学は究極のリモートセンシング(“絶対に”行けない場所の研究)\(\to\)まずは対象までの距離を知る必要

  • 月や惑星についてはレーザー測距
  • 太陽までの距離:ケプラーの法則
  • 星までの距離:地球–太陽間を用いた三角測量
  • より遠くの距離測定(銀河など)については銀河の回で解説します

地球の公転を用いた三角測量

  • 地球の公転に応じ、星の見える位置が変化
    • 年周視差(annual parallax)
  • 遠くの星はほとんど動かない
  • 近くの星は背景の星に対して変化
  • 変化する角度の大きさが距離に対応

  • 年周視差\(=1\)秒角となる距離を
    「1パーセク」(1 parsec)と定義する

    • 1分角(arc-minute)\(=1/60\)
    • 1秒角(arc-second)\(=1/60\)
<span style='font-size:16px;position:relative;top:-60px'>星の距離の三角測量<br><span style='position:relative;top:-30px'>([Wikimedia commons](https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Stellarparallax2.svg))</span></span>

星の距離の三角測量
(Wikimedia commons)

パーセクと距離の対応

  • 1パーセク\(= 3.26\)光年 \(\leftrightarrow\) 年周視差1秒角
  • 10パーセク\(= 32.6\)光年 \(\leftrightarrow\) 年周視差0.1秒角
  • 100パーセク\(= 326\)光年 \(\leftrightarrow\) 年周視差0.01秒角

  • 遠くの星ほど距離測定の為には精密な角度の測定が必要
    • cf. 視力\(1.0 \leftrightarrow 空間分解能1.0\)分角

高精度年周視差観測衛星

  • Hipparcos 衛星 (HIgh Precision PARallax COllecting Satellite)
  • 欧州宇宙機関 (ESA) により1989年に打ち上げ \(\to\) 1993年に運用終了
  • ミッション総額 €600 million
  • 地球大気の影響を避け、高精度の星位置測定・カタログ作成を行う
    • 2,539,913個の星の位置カタログを2000年に公表
<span style='font-size:16px;position:relative;top:-60px'>[ESA](https://www.cosmos.esa.int/web/hipparcos/home)</span>

ESA

Hipparcos 衛星による年周視差の観測

星団の観測

星カタログの意義1

  • 星の位置のリスト
    • 宇宙航行\(\gets\)星の位置から自分の位置・姿勢を知る
  • 例:ひまわり8号
    • AHI 画像解像度 0.5km \(\sim\) 2km
    • 高度36,000kmでの姿勢精度
      2.9 \(\sim\) 11秒角

星カタログの意義2

  • 星までの距離のリスト
    • 星の本当の明るさ、放出している本当のエネルギーを知る
  • 星の3次元空間分布
    • 銀河系の構造の推定 (ただし Hipparcos ではまだ不十分)
  • 星の「固有運動」により作成後時間が経つにつれて精度が悪化することに注意
  • GAIA 2018年4月25日データリリース
  • 日本でもJASMINE計画が進行中
    • 明るい星の高精度の位置決定
    • ダストに隠された星を近赤外線で観測
<span style='font-size:16px;position:relative;top:-60px'>[ESA](https://www.cosmos.esa.int/web/hipparcos/high-proper-motion-stars)

ESA

GAIAにより観測された全天の星の分布

ESA Science & Technology

星の固有運動

  • ミラの星風によるtail(紫外線衛星GALEXの観測データ)

星の“本当の”明るさ

明るい星はより近くの星か?

星の(見かけの)明るさを決める要因II
星の(表面)温度

  • 星の色の違いは温度の違い
  • 温度が高いものほどより明るくなる
    \(\to\) より近くに見える

星の表面温度と明るさの関係
(星の大きさを一定とした場合)

星の真の明るさ

  • 遠くにある星でも温度が高い(\(=\) 大きい)と明るく見える
  • 星の見かけの明るさと真の明るさを区別する必要
  • 見かけの明るさ:apparent magnitude
  • 真の明るさ:絶対等級 (absolute magunitude)
    • 距離10パーセクに置いた時の明るさを絶対等級と定義

星の燃焼

中心核に於ける水素の核融合


  • 陽子4つからヘリウム原子核1つが作られる
    • “pp chain” と呼ばれる
\[\begin{align} p + p &\to \mathrm{^2H} + e^+ + \nu_e\\ \mathrm{^2H} + p &\to \mathrm{^3He} + \gamma\\ \mathrm{^3He} + \mathrm{^3He} &\to \mathrm{^4He} + p + p \end{align}\]

ppチェイン

  • 全体で陽子4つからヘリウム原子核1つが生成
    • 陽子6つからヘリウム原子核1つ+陽子2つに変換
    • より正確にはこの道筋に加え、BやBeが介在する道筋も存在
  • 合計質量は0.7%軽くなる \(\to\) エネルギーに変換される
    • \(E = mc^2\)
  • 太陽の場合、毎秒に430万トンの質量が\(3.8\times 10^{26}\) Jのエネルギーに変換されている

核融合の反応レート

星の中心部の圧力で決まる
(圧力は「自分の上にどれだけ物が乗っているか」)

  • 星を重くすれば中心部の圧はより高まる
  • 水素が良く燃え、高温になる

  • 重たい星(大きい星)ほど高温になる

重たい星の燃焼

CNOサイクル

\[\begin{align} \mathrm{C} + p &\to \mathrm{^{13}N} + \gamma\\ \mathrm{^{13}N} ~~~~~~~ &\to \mathrm{^{13}C} + e^+ + \nu\\ \mathrm{^{13}C} + p &\to ~~~ \mathrm{N} + \gamma\\ \mathrm{N} + p &\to \mathrm{^{15}O} + \gamma\\ \mathrm{^{15}O} ~~~~~~~ &\to \mathrm{^{15}N} + e^+ + \nu\\ \mathrm{^{15}N} + p &\to ~~~ \mathrm{He} + \mathrm{C} \end{align}\]


  • CNOを触媒として4つの陽子がヘリウムに変換される
  • ppチェインよりも高い温度で有効に働く
  • 太陽より重い質量の星で有効
    • 太陽ではエネルギー発生量の1.6%に寄与

ppチェインとCNOサイクルの比較

Credit: Adapted from an image by Mike Guidry, University of Tennessee

  • 星の質量が大きい\(\to\)中心核の圧力が上昇\(\leftrightarrow\)温度が上昇
  • 質量の大きな星はエネルギー生成が急激に増大する

質量による星の違い

主系列星の質量-光度関係

  • 星の光度(明るさ)は質量の3.5乗に比例して増大
    • \(\mathrm{L} \propto \mathrm{M^{3.5}}\)
    • 質量が2倍の星は、元の星の11.3倍明るい
    • 質量が5倍の星は、元の星の280倍明るい
  • 質量の大きな星ほど中心部の水素原子を急激に消費する
  • 重い星ほど寿命が短い

主系列星の質量-光度関係

  • 星の光度(明るさ)は質量の3.5乗に比例して増大
    • \(\mathrm{L} \propto \mathrm{M^{3.5}}\)
    • 質量が2倍の星は、元の星の11.3倍明るい
    • 質量が5倍の星は、元の星の280倍明るい
  • 質量の大きな星ほど中心部の水素原子を急激に消費する
  • 重い星ほど寿命が短い

星の質量と主系列星としての寿命

主系列星の質量と表面温度の関係

星の表面温度と明るさの関係

質量による表面温度と明るさの変化

  • 質量が大きいほど明るい \(\left(\mathrm{L} \propto \mathrm{M^{3.5}}\right)\)
  • 質量が大きいほど高温 & 半径大

“高温の星ほど明るい”という関係として観測される

星の質量と大きさの関係

表面温度と明るさの関係

星の表面温度と色(スペクトル型)との関係

Hanson, Astronomy cource at U of Cincinnati

H-R図
(Hertzsprung-Russell Diagram)

<span style="font-size:16px;position:relative;top:-50px">[ESO](https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Hertzsprung-Russel_StarData.png)</span>

ESO

  • 縦軸は星の絶対等級
    (若しくは光度)
  • 横軸は星の表面温度
    (色・スペクトル型)
    • 横軸の向きは反転
      (歴史的経緯による)
  • 様々なタイプの星がH-R図上でうまく分かれる
  • 星までの距離測定に使える

太陽ニュートリノ(問題)

核融合反応によるニュートリノ生成

  • pp chanin や CNO cycle によるニュートリノ放射
  • エネルギーの2%を持ち去る

スーパーカミオカンデによるニュートリノ観測

チェレンコフ光

ニュートリノで見た太陽

  • 観測されるニュートリノ強度は理論予想値の約半分(45%)
  • “ニュートリノ振動”により\(\nu_e\)\(\nu_{\mu},~\nu_{\tau}\)と(振動的に)変換

日本のニュートリノ研究によるノーベル賞

リクナビホームページより J-PARC

太陽活動の11年周期とニュートリノ

学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想
「ロードマップ」

日本学術会議

  • 内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として1949年に設立
  • 科学に関する重要事項を審議し、政府への提言を行う
  • 数年ごとに「マスタープラン」(学術の大型研究計画に関するマスタープラン)を策定
  • マスタープランに基づく「ロードマップ」を策定

(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1388523.htm)

ロードマップ2017

2017年7月策定(推進すべき大型計画として7計画を記載)

いろいろなものの予算