Hipparchus(\(I \pi \pi \alpha \rho \chi \omicron \zeta\); 紀元前190年ごろ - 紀元前120年ごろ) : 古代ギリシャの天文学者 (Wikimedia Commons)
星の(見かけの)明るさを初めて系統的に整理したのはギリシャのHipparchusである。 人類初の星のカタログとされる星表を作成し、その中で各々の恒星を見かけの明るさに応じて1等星から6等星までの6段階に分類した。 1等星が夜空で最も明るい星々を指し、6等星が肉眼で見える最も暗い星々である。
現代に於ける星の明るさの表現も、このヒッパルコスの定義をほぼそのまま受け継いでいる。 具体的には1等星とされた星々の明るさが6等星の明るさのほぼ100倍であったことからこれを定義とし、1等級異なる毎に明るさが\(\sqrt[5]{100} = 2.51\)倍ずつ異なるスケールを用いる。 このため各星の明るさは少数点以下を含めた連続的な数値で表される。また数字が大きいほど暗く、0等級より明るい天体については数字がマイナスになる。
星の表す等級(マグニチュード)という言葉であるが、地震のマグニチュードと語義は同じであり、地震の規模も星の明るさも共に「対数スケール」である点に注意しておこう。 これは明るさや強さ等に関する人間の感覚が対数スケールに近く、従って人間の“見た目”に近いスケールであることも大きな理由の一つである。 例えば音の大きさ(音圧)を表す“ホン”も対数スケールで表現される。
天文学は究極のリモートセンシング(“絶対に”行けない場所の研究)であり、観測結果から対象の性質を知るためには、まずは対象までの距離を知る必要がある。 このため天体までの距離測定方法は重要である。
前回の授業で解説した様に、月や近傍の惑星(金星・火星)についてはレーザー測距で距離測定を行い、この距離を元に太陽までの距離はケプラーの法則を用いて決定する。 より遠くの星までの距離は、地球–太陽間を用いた三角測量により決定する1 より遠くの距離測定(銀河など)については銀河の回で解説します。。
星の距離の三角測量 (Wikimedia commons)
地球の公転を用いた三角測量は、天体までの距離を決める最も基本的な方法である。 地球が太陽の周りを周回するのに伴い、地球から見た星の位置が変化する(右図)。 遠くの星の位置がほとんど動かないのに対し、近くの星は背景の星に対して相対的に位置が変化する。 変化する角度の大きさは星までの距離にほぼ反比例する。
半年間隔で観測した星の位置の変化量の半分を”年周視差 (annual parallax)”と呼ぶ。 これは 1 au 離れた2点から観測した際の位置の変化量に相当する。 この年周視差の大きさから星までの距離を決定する。
年周視差\(=1\)秒角となる距離を
「1パーセク」(1 parsec; pc)と定義する。 1 pc はおよそ 3.26 光年に相当する。
1パーセク | \(3.26\)光年 | 年周視差1秒角 |
10パーセク | \(32.6\)光年 | 年周視差0.1秒角 |
100パーセク | \(326\)光年 | 年周視差0.01秒角 |
ここで1分角(arc-minute)は1度の\(1/60\)、1秒角(arc-second)は1分角の\(1/60\)である。
年周視差と距離との対応を見れば明らかな様に、遠くの星ほど距離測定のためには精密な角度の測定が必要である2 人間の視力は、1分の角度を見分けられる時を視力1.0とし、見分けられる角度の逆数を視力と定義する。年周視差の測定には視力\(1000\sim 1万\)が必要ということになる。。
全天の星の位置を測定し、カタログを作成する観測が行われている。 地球大気の影響を避け、高精度の位置測定を行うため、観測は人工衛星により行われる。 欧州宇宙機関 (ESA) は Hipparcos 衛星 (HIgh Precision PARallax COllecting Satellite) を打ち上げた。 この衛星は1989年に打ち上げられ、1993年に観測運用を修了した。 ミッション総額 €600 millionであった。 Hipparcos 衛星は全天の 2,539,913 個の星の位置カタログを作成し、2000年に公表している。
Hipparcos 衛星による観測画像の例を以下に示す。 いずれも半年間隔で撮影された二枚の画像を並べて示して示している。 平行法で立体視すると、近くの星が背景の星に対し浮き上がって見えるはずである。
星のカタログを作る意義はどこにあるのであろうか?
一つ目の意義として、宇宙航行の際の道標とすることが挙げられる。 宇宙空間を飛行する人工衛星は、星々の位置を観測することにより自分の位置や姿勢を測定する。
例えばひまわり8号の場合、搭載された AHI (Advanced Himawari Imager) は地上 0.5km \(\sim\) 2km を見分けることが可能である。 このとき高度36,000kmを飛ぶ静止衛星の姿勢精度は2.9 \(\sim\) 11秒角が必要となり、すなわちひまわり8号の姿勢決定のためにはこれだけの位置精度を持った星カタログが必要となる。
星の固有運動の例(ESA)
星の固有運動 – ミラの星風によるtail(紫外線衛星GALEXの観測データ; NASA/JPL-Caltech)
星カタログのもうひとつの意義は、星そのものの性質を決定・理解するためのものである。
星を観測する際、近くの星は明るく、遠くの星は暗く見えることから、星までの距離を知ることにより、星の本当の明るさ・放出している本当のエネルギー量を知る必要がある。 また星の三次元空間内での分布を知ることにより、銀河系の三次元構造の推定が可能である。
ただし、銀河系全体の構造推定には、Hipparcos 衛星ではまだ観測精度が不十分であった。 また星の「固有運動」により、星カタログは作成後時間が経つにつれてその精度が悪化することに注意が必要である 。
これらの要請に応えるため、ヒッパルコスに次ぐ位置観測衛星としてGAIAが打ち上げられ、現在観測を行っている。 2018年4月25日には初の本格的なデータリリースを行った。 そのデータを用い、既に銀河系内の星の運動を調べることから過去の銀河衝突の証拠を明らかにする(文献1, 文献2, 文献3)など、重要な科学的成果が挙げられている。
Hipparcos, GAIA は共に欧州宇宙機関 (ESA) の打ち上げた衛星であった。 これに対し、日本でもJASMINE計画が進行中である。
遠方の暗い星の位置決定を行う GAIA に対し、JASMINE は宇宙航行にとって重要となる、明るい星の高精度な位置決定を計画している。 また銀河の動力学的構造(引力に支配された運動によって決まる構造)にとって重要な、銀河系中心領域の星々の位置決定も行う。 銀河系中心領域は濃い星間塵に覆われており、可視光では星の位置を見通すことが出来ない。 これに対し、JASMINE は近赤外線で観測することで、銀河系中心付近の星の観測を行う計画である。
Hanson, Astronomy cource at U of Cincinnati
温度による輻射スペクトルの違い。温度が高いほど輻射のピークは短い波長(赤\(\to\)青$)にシフトする。
オリオン座の星々(Wikimedia commons)。個々の星毎に色が異なることが分かる。
温度による輻射スペクトルのち外。温度が高いほど輻射のピークが短い波長にシフトすると共に、急激に強度が強く(明るく)なる。一方で輻射スペクトルの形状は全て相似形であることに注意。
星の表面温度と明るさの関係 (星の大きさを一定とした場合)
星はそれぞれ明るさが異なっており、遠くにある星でも温度が高い(\(=\) 大きい)と明るく見える。 従ってそれぞれの星までの距離を知ることにより、星の見かけの明るさと真の明るさを区別する必要がある。 星の見かけの明るさを apparent magnitude、真の明るさを“絶対等級 (absolute magunitude)”と呼ぶ。 絶対等級は、星を距離10パーセクに置いた時の明るさと定義する。
星ごとに異なる特徴として、明るさ以外にそれぞれの色が挙られる。 星の色を決める要因は星の表面温度である。 表面温度の高い星ほど輻射スペクトルの波長が短く(即ち”青く”)なり、明るさもまた明るくなる。 即ち、星の色もまた星の明るさと密接に関わっている。
ppチェインの反応模式図 (Borb via Wikimedia Commons)
星の中心核に於ける核融合反応を詳しく見てみる。 星の中心核では、主に陽子4つからヘリウム原子核1つが作られる核融合反応が行われている。 水素原子核(陽子; proton)に陽子を次々とぶつける反応であることから、この核融合反応を “pp chain” と呼ぶ。
pp chain の反応経路は以下の通り。 ここで記号\(p\)は陽子(proton)を表す。 また\(\gamma\)は\(\gamma\)線(高エネルギーの光子)、\(\nu_e\)はニュートリノ(電子ニュートリノ)である。
\[\begin{align} p + p &\to \mathrm{^2H} + e^+ + \nu_e\\ \mathrm{^2H} + p &\to \mathrm{^3He} + \gamma\\ \mathrm{^3He} + \mathrm{^3He} &\to \mathrm{^4He} + p + p \end{align}\]この反応により、全体で陽子4つからヘリウム原子核1つが生成される。 (陽子6つがヘリウム原子核1つ+陽子2つに変換される。またより正確にはこの道筋に加え、BやBeが介在する道筋も存在する。)
陽子4つからヘリウム原子核1つが生成される際に合計質量は0.7%軽くなる。 この質量が\(E = mc^2\)の関係によりエネルギーに変換される。 これが核融合による恒星のエネルギー源である。 太陽の場合、毎秒に430万トンの質量が\(3.8\times 10^{26}\) Jのエネルギーに変換されている。
核融合の反応レート(反応がどれだけ激しく行われるか)は、星の中心部の圧力で決まる。 星の中心部の圧力は星全体の重さで決まる。 即ち、重い星ほど中心部の圧は高まる。 (圧力は「自分の上にどれだけ物が乗っているか」で決まることに注意。)
従って重い星ほど核融合の反応レートは高くなり、中心部で水素が良く燃える結果、表面の温度も高温となる。
CNOサイクルの模式図(Borb via Wikimedia Commons)
恒星中心核温度に依るppチェインとCNOサイクルの反応率の比較(Credit: Adapted from an image by Mike Guidry, University of Tennessee)
太陽よりも重たい星の場合 PP チェインに加え、炭素(C)・窒素(N)・酸素(O)を触媒とする核融合反応も重要な反応過程となる。
この核融合反応のことを“CNOサイクル”と呼ぶ。 反応過程は以下の通りである。
\[\begin{align} \mathrm{C} + p &\to \mathrm{^{13}N} + \gamma\\ \mathrm{^{13}N} ~~~~~~~ &\to \mathrm{^{13}C} + e^+ + \nu\\ \mathrm{^{13}C} + p &\to ~~~ \mathrm{N} + \gamma\\ \mathrm{N} + p &\to \mathrm{^{15}O} + \gamma\\ \mathrm{^{15}O} ~~~~~~~ &\to \mathrm{^{15}N} + e^+ + \nu\\ \mathrm{^{15}N} + p &\to ~~~ \mathrm{He} + \mathrm{C} \end{align}\]CNOサイクルにより、CNOを触媒として4つの陽子がヘリウムに変換される。 (反応過程でC, N, Oは互いに変換されるものの、個数は変化していないことに注意。) CNOサイクルはppチェインよりも高い温度で有効に働くことが特徴である。 即ち太陽より重い質量の星で重要な反応となる。 (太陽ではエネルギー発生量の1.6%に寄与している。)
ppチェインに比べCNOサイクルの方が反応レートが高い(エネルギー変換効率が良い)ため、質量の大きな星(重い星)は小さな星(軽い星)に比べエネルギー生成量が急激に増大する。
主系列星の質量と光度関係(リニアスケールで表現した場合)。質量の増大と共に光度が急激に増大することが分かる。
主系列星の質量と光度関係(対数スケールで表現した場合)。質量と光度がべき乗の関係(3.5乗)にあることが分かる。(Australia Telescope National Facility)
星の質量と主系列星としての寿命の関係
主系列星の質量と表面温度の関係
重たい星ほど中心核に於ける核融合反応の反応レートが高く、且つより効率の良い反応経路も利用出来ることから、星の光度(明るさ)は星の質量に応じて急激に増大する。 星の光度(明るさ)は質量の3.5乗に比例して増大する\(\left(\mathrm{L} \propto \mathrm{M^{3.5}}\right)\)ことが知られている。 即ち、例えば質量が2倍の星は、元の星の11.3倍明るく、質量が5倍の星は、元の星の280倍明るくなる。 従って質量の大きな星ほど中心部の水素原子を急激に消費することとなり、その結果重い星ほどその寿命は短くなる。
星の質量と大きさの関係
星の表面温度と明るさの関係
星の表面温度と色(スペクトル型)との関係(Hanson, Astronomy cource at U of Cincinnati)
星の表面温度と観測されるスペクトルとの関係(Hanson, Astronomy cource at U of Cincinnati)
H-R図(Hertzsprung-Russell Diagram; ESO)
星の質量を観測から決定することは簡単ではなく、直接観測されるのは星の表面温度や明るさである。 従って星の表面温度や明るさと星の質量との関係を調べておくことは重要である。
星は質量が大きいほど明るく \(\left(\mathrm{L} \propto \mathrm{M^{3.5}}\right)\)、 また質量が大きいほど高温且つガスの総量が多いことから直径が大きくなる3 同じ温度であれば、直径が大きいほど(光っている面積が大きくなることから)明るくなる。。
この結果、高温の星ほど明るく輝くことになる。
星の質量と大きさの関係、星の表面温度と明るさの関係をそれぞれ右図に示す。 また星の色\(\left(= 星の表面温度\right)\)と観測されるスペクトルとの関係も示しておく。
星の色と絶対等級に関係があることから、これらの量(観測により得られる量)をグラフにプロットすると、星はグラフ上の一列に並ぶことになる。 この様子を表した図を、考案者の名前にちなみ「H-R図 (Hertzsprung-Russell Diagram)」と呼ぶ。
グラフに於いて、縦軸は星の絶対等級(若しくは光度)を示し、また横軸は星の表面温度(若しくは色・スペクトル型)を示す。 H-R図が考案された当時は星の色が表面温度と結び付けられていなかったため、横軸は左側に青、右側に赤をとって描かれた。 この経緯により、現在でもH-R図の横軸は左側が高温、右側が低温として描かれる慣習になっている。
星の質量-光度関係により、多くの星がグラフの左上 – 右下を結ぶ線上に並ぶ。 この線上の星のことを「主系列星(main-sequence stars)」と呼ぶ。
主系列星とは、中心核で水素をヘリウムに変換する核融合を行っている星のことである。 星は一生の間のほとんどの期間をこの主系列状態で過ごす。
一方H-R図上で主系列星の右上、あるいは左下にも星が分布する。 これらの星は中心核に於ける水素核融合以外の核融合反応を行っている星、あるいは核融合を既に終えてしまった星々である。 これらの星については次回の講義で詳しく述べる。
様々なタイプの星がグラフ上で上手く分かれることから、H-R図は各恒星の特徴を表す図として今日でも良く用いられている。 更には対象の星が主系列星であると(スペクトルの観測から)分かっている場合、その見かけの明るさと絶対等級の差は、星までの距離に因ると考えられる。 即ちH-R図上の主系列星の観測される明るさと絶対等級との差から、星までの距離を推定することが出来る。
核融合反応によるニュートリノ生成(Franarin & Fairbairn 2016, Phys. Rev. D, 94, 053004)
光とニュートリノの太陽中心核から表面への伝達。光は高密度の電離したガスと衝突を繰り返すことにより、表面に到達するまでにおよそ100万年程度かかる。一方物質とほとんど相互作用しないニュートリノは中心核からそのまま表面へ到達する。(ISAS/JAXA)
スーパーカミオカンデによるニュートリノ観測(asahi.com)