ハッブル望遠鏡を用いてオリオン大星雲中に観測された様々な原始惑星系円盤。(NASA/ESA and L. Ricci (ESO))
ESO VLT により撮影された原始惑星系円盤の画像(ESO)
ESO VLT により撮影された原始惑星系円盤の画像(ESO)
電波干渉計ALMAにより撮影された原始惑星系円盤画像。HL Tau (ALMA Partnership 2015)
電波干渉計ALMAにより撮影された原始惑星系円盤画像。TW Hya (Andrews et al., 2016)
電波干渉計ALMAにより撮影された原始惑星系円盤画像。HD97048 (van der Plas et al., 2017)
電波干渉計ALMAにより撮影された原始惑星系円盤画像。Andrews et al. (2018)
原始惑星系円盤の可視光(Hubble)、赤外線(Herschel)、電波(ALMA)による観測の比較(SERGE BRUNIER)。各波長の観測の比較から円盤内の密度と温度分布を推測することが出来、円盤内での惑星形成のモデル構築に重要な情報が得られる。
前の章で、新たに生まれる星の周囲に、惑星系を作る元となる原始惑星系円盤が形成されることを見た。 原始惑星系円盤は、当初直接その姿が観測された訳ではなく、若い星に付随する温かい星間物質として星のスペクトル上に観測され、そこからその姿が推測された。 その後先ずはハッブル望遠鏡によりオリオン大星雲を観測した際に、明るい星雲を背景とした「影」として観測され、後に地上の大望遠鏡を用いてその姿が直接撮影されるに至った(下図、右図)。 最近では、電波干渉計による観測から、星周円盤を構成する低温の星間物質の高分解能直接観測が実現している(右図)。
ESO/ NASA, ESA, M. Robberto ( Space Telescope Science Institute/ESA) and the Hubble Space Telescope Orion Treasury Project Team
すなわち、生まれたばかりの若い星 (原始星; proto-stars) の周囲に星周円盤が存在することは確実である。 これを原始惑星系円盤 (proto-planetary disks; proplyds) と呼ぶ。 この中からどの様にして惑星が誕生するのかについて、現在盛んに研究が行われている。
惑星の形成過程を理解するために、まずは最も身近である太陽系の各惑星の特徴を良く観察することが重要である。 各惑星の重さや大きさなどの数値を表に示す。
ここから、太陽系内の各惑星は大きく3つのグループに分けることが出来、各々以下の特徴を持つことが分かる。
太陽に近い | 水星、金星、地球、火星 |
⇕ | 木星、土星 |
太陽から遠い | 天王星、海王星 |
惑星系の形成理論は、これらのグループの持つ特徴を説明出来る必要がある。
林忠四郎 (1920–2010; 中野武宣氏の発表資料より引用)
原始惑星系円盤内での惑星形成の大まかな描像。(SEEDSホームページより)
古典的標準モデルに基づく惑星形成の詳細。(理科年表)
太陽系の惑星形成モデルは、1970年代〜1980年代に、林忠四郎氏を中心とした京都大学の研究グループにより基本的なシナリオが構築された。 このモデルは原始惑星系円盤からの惑星系形成を想定し、太陽系に見られる岩石惑星・ガス惑星・氷惑星の三種の惑星の分布や性質の差異をきれいに説明している。 このためこのモデルは21世紀初頭までは事実上の標準モデルであった。 最近はこのモデルに合わない系外惑星が多く発見される様になり、モデルに修正が求められている。 (この内容は後述する。) このため現在はこのモデルは「古典的標準モデル」と呼ばれる。
古典的標準モデルでは、惑星の形成が以下の順に進むと考える。
惑星系形成の進む原始惑星系円盤の想像図。(NASA/JPL-Caltech)
cf. 水星質量 0.06 M\(_{\oplus}\)、火星質量 0.11 M\(_{\oplus}\)
惑星系は原始惑星系円盤から形成される。原始惑星系円盤は円運動をするガス円盤のため、そこからから形成される惑星の軌道はほぼ一つの面上を同一方向に周回する円軌道となる。
以上が古典的標準モデルの内容である。 これらのは我々の太陽系の各惑星の特徴を非常に良く説明する。
その一方で、古典的標準モデルには以下の問題点も存在する。
ガス円盤中の惑星落下のシミュレーション(PABLO BENÍTEZ LLAMBAY)
これらの問題を孕みつつも、古典的標準モデルは太陽系の各惑星の特徴を非常に良く記述出来た。 このためこれらの問題を個別に解決することで、惑星系形成モデルが完成すると予想された。
しかし近年、古典的標準モデルに合致しない太陽系外惑星が多く見つかる様になり、古典的標準モデルは大きな修正が必要と考えられる様になっている。
系外惑星を初検出したスイス・ジュネーブ大の Didier Queloz と Michel Mayor。背景は初検出に使用したESO3.6m鏡。(ESO)
系外惑星の初検出を報告する論文に載った、惑星の検出シグナル。(Mayor & Queloz, Nature 378, 355–359, 1995)
太陽以外の星の周囲に存在する惑星を探す“系外惑星探査”は、“第二の地球探し”として1940年代から大型望遠鏡を用いて行われて来た。 1980年代には、仮に太陽系と同様の惑星が他の星の周囲に存在すれば、十分観測出来る観測精度に達していたが、それでも系外惑星は見つからず、系外惑星はそもそ存在しないか、存在するとしても非常に稀なのではないかと考えられる様になった。「かけがえのない地球」という言われ方が良くされたのもこの頃である。 1990年代には、当時の観測をリードしていたチームが「系外惑星の検出は不可能である」と宣言して撤退するなど、観測チームの撤退が進み、地球サイズの惑星の検出には今後100年かかるとも言われた。
そんな中、最初の系外惑星の発見は1995年に報告された。 発見された系外惑星は意外なものであった。 スイス・ジュネーブ大のチームにより発見されたその惑星は、木星程度の質量を持ちながら、中心星の周囲を4日という非常に短い公転周期で周回していた。 太陽系では木星や土星は5天文単位よりも離れた軌道を10年以上の公転周期で周回していることを考えれば、発見された系外惑星の特異さが理解されよう。 この惑星、及びこれに続く同様の系外惑星は、中心星に近い“暑い”惑星であることと、“ホット”な話題性を持った天体であることをかけて、「ホット・ジュピター」と呼ばれた。
次に発見されたのは「エキセントリック・ジュピター」である。 古典的標準モデルによれば、原始惑星系円盤から誕生する惑星は、互いに同じ向きに円軌道を描いて周る。 これに対し、エキセントリック・ジュピターは軌道が扁平な長楕円軌道であり、古典的標準モデルとは合致しない。 惑星の公転軌道の扁平度のことを「エキセントリシティー」と呼ぶ。真円であればエキセントリシティーは小さく\((=0)\)、扁平率が高いほどエキセントリシティーは大きい(直線であれば1)。エキセントリシティーの大きな“不思議な”惑星の意味を込めて、「エキセントリック・ジュピター」と呼ばれている。
地球よりも10倍以上の大きさを持つ岩石惑星も、古典的標準モデルでは作ることが難しい。 しかし太陽系外にはこの様に質量の大きい岩石惑星「スーパーアース(super-Earths)」も多く発見される。 また現在の観測技術では地球サイズの系外惑星の検出も可能となっているが、中心に非常に近い、太陽系の水星の軌道のはるか内側にも多数の地球型惑星が発見されている。
これらは何れも、発見前には存在することが全く予想されていなかった惑星達であり、従ってそれまでは多くの惑星のシグナルが見逃されて来たのである。 従って一旦見つかる様になると、系外惑星は続々と発見されることとなった。
系外惑星の探査法にはいくつかの方法がある。
1940年代の系外惑星探査開始当初から用いられているのは、中心星の周りを惑星が周回することにより中心星の位置がわずかに揺らぐことを検出する「位置観測法 (astrometry)」である。 しかし地上望遠鏡による観測では大気揺らぎにより中心星の位置を安定して精密に測定することが困難である。 そのためこの方法による検出成功事例は最近の1例のみである。
位置測定法が中心星の位置の揺らぎを観測するのに対し、視線速度法は中心星の奥行き方向の揺らぎ(速度の揺らぎ)を、フラウンホーファー線のドップラー効果による波長の揺らぎとして観測する。 この方法は大気の揺らぎによる影響を受けにくく、高精度の観測が可能である。 系外惑星を最初に検出したのはこの方法である。
中心星の奥行き方向の揺らぎ(速度)を、観測者の視線に沿った速度であることから、視線速度と呼ぶ。 惑星の公転により引き起こされる中心星の視線速度変化の大きさは、太陽系の場合、木星で 13 m/s、土星では 3 m/s である。ただしそれぞれの公転周期は木星12年、土星30年であり、視線速度の変化を検出するためにはこの間観測を続ける必要かある。 そのためこの方法では、軌道半径が大きく、公転周期の長い惑星の検出は難しい。
地球の場合、視線速度の変化は 10 cm/s と小さいが、一方公転周期は短く、観測は相対的に容易である。 中心星が太陽より軽い場合、惑星の影響をより強く受ける。 このため視線速度法では、中心星が軽く、軌道半径が数十分の1au 以下の惑星が検出可能となる。 今日発見されている系外惑星に中心星に近いものが多いのはこのためである(ex. プロキシマ・ケンタウリ)。
質量が大きいガス惑星が中心星の近くを周回するホット・ジュピターの場合、視線速度の変化は更に大きく、\(50 \sim 数百 \mathrm{m/s}\)となる。 現在の観測技術による検出精度は \(< 1 \mathrm{m/s}\) であり、地球サイズの惑星でも中心星に近いものは検出出来る。 1980年代時点で検出精度は \(10\sim 20 \mathrm{m/s}\) であり、ホット・ジュピターを余裕で検出出来る感度に達していた。(しかし1995年に最初の発見がなされるまで誰も気付かなかった。)
惑星が中心星の光を遮る“惑星トランジット”の観測データ例(exoplanets.nasa.gov)
トランジット法は、中心星の近くを周回する惑星が、中心星の光を周期的に遮ることによって惑星を検出する方法である。 太陽の光を木星か遮った場合、その減光率(光の暗くなる割合)は\(\sim 1\%\)である。 この減光率は、地上の10cm程度の望遠鏡でも検出可能である。 (つまり、アマチュアでも頑張れば系外惑星を発見可能である。) 口径数m以下の中小口径望遠鏡にとっては、惑星トランジットによる系外惑星検出は良い観測ターゲットである(観測時間を確保出来るため大望遠鏡よりも有利となる)。
トランジット法による系外惑星検出は、専用の人工衛星であるケプラー衛星(口径1m)の活躍により大きな成果を上げた。 宇宙空間の場合、大気揺らぎの影響を受けないことから、\(<0.01\%\)の減光も検出可能である。 このため地球・火星サイズの惑星も検出可能である。 現在までに確定したもので約2700個、候補天体含めると約4700個の系外惑星を発見しており、視線速度法を上回って検出数で最大である。 ケプラー衛星は2018年に観測を終了したが、現在はその後継となる TESS 衛星が観測を開始しており、系外惑星検出数は今後更に増大すると期待される。
トランジット法はその原理から、中心星に近い惑星ほど検出が有利である。 例えば木星(太陽からの距離5au)の場合、他の星から観測した場合に木星が太陽を隠す軌道となる確率は0.1%程度であり、且つトランジットは12年に1回しか起こらない。 一方ホット・ジュピター(中心星からの距離0.05au)の場合、トランジットを起こす確率は 10% となり、且つその周期は数日に一回である。 このためトランジット法による系外惑星の検出には有利・不利があり、観測データの解釈には注意が必要である。
直接撮像法によるフォーマルハウト(みなみのうお座の1等星)の惑星“フォーマルハウトb”のハッブル望遠鏡観測画像(Credit: NASA, ESA, and P. Kalas (University of California, Berkeley and SETI Institute))
フォーマルハウトbと太陽系の各惑星との軌道の比較。(Credit: NASA, ESA, and A. Feild (STScI))
すばる望遠鏡 HiCIAO による、太陽型恒星 GJ 504 のまわりの低質量惑星 GJ 504 b の赤外線カラー合成画像。(クレジット:国立天文台)
すばる望遠鏡 HiCIAO による、アンドロメダ座κ星を回る巨大なガス惑星の画像。地球からの距離 170 光年。惑星の質量は木星の 13 倍。太陽系の海王星の軌道より少し遠い軌道を周る。(クレジット:国立天文台)
Keck天文台により撮影された、地球からの距離129光年(39パーセク)の星 HR 8799 周囲の惑星系。(Credit: Jason Wang and Christian Marois)
直接撮像法とは、文字通り系外惑星を“直接”観測する方法である。 しかし系外惑星は中心星のすぐ近くを周回しているため、中心星の明るい光に遮られて通常見ることが出来ない。 その光度差は可視光で\(10^8\)倍となる。 そのため中心星を隠す“コロナグラフ”を用い、中心星の光を遮った状態で、系外惑星の検出を行う。 更に観測のためには高い空間分解能ときれいな星像(星の画像)が必要であることから、観測にはすばる等の大望遠鏡やハッブル等の宇宙望遠鏡が必要となる。 また、他の方法と異なり、中心星から離れた惑星ほど検出が有利となる。
恒星や惑星の近くを光が通過する時に、重力の影響で光の方向がわずかに曲げられる。 この効果により、恒星や惑星の背景の星の光がわずかに増大する。 この効果を“重力レンズ”と呼ぶが、ブラックホールや銀河による重力レンズよりも効果がずっと小さい恒星や惑星の場合、特に“マイクロレンズ”と呼ぶことがある。 背景の星の光の増大から、手前側を通過した星と、その近くを周回する惑星を発見する手法がマイクロレンズ法である。 この方法により地球質量程度の惑星が発見された例がある(大阪大・名古屋大のグループによる)。
1995年の初の系外惑星が発見されて以来、同様の惑星の発見が一挙に進んだ。 発見された惑星数は2003年に100個を超え、2010年には500個を超えた。 その後2009年に打ち上げられた系外惑星探査専用衛星ケプラー(Kepler)により多くの系外惑星が発見され、その数は2016年段階で3500個、ほぼ確実な候補天体を含めれば約6000個となっている。 2018年にはKeperの後継となるTESS衛星が打ち上げられ、今後更に多くの系外惑星が検出されると期待される。
これまでに検出された系外惑星の軌道半径(横軸)と惑星質量(縦軸)の関係。色はそれぞれの惑星の検出方法を示す(灰色:Kepler、青:視線速度、赤:トランジット、緑:マイクロレンズ、橙:直接撮像)。右下に天体が無いのは検出限界のため。(exoplanets.org)
右図に示すのは、これまでに検出された系外惑星の軌道半径(横軸)と惑星質量(縦軸)の関係である。 惑星質量が0.1木星質量付近に、岩石惑星とガス惑星の境目が見られる。 古典的標準モデルでは、中心星から近い内側に岩石惑星、外側にガス惑星が形成される筈であるが、図に見られる通り、軌道半径0.1au以内にも多数の大質量惑星(ガス惑星)が発見される。 これが「ホット・ジュピター」と呼ばれる惑星である。
岩石惑星についても、1auよりも内側に木星質量の1/100以上、すなわち地球(質量は木星質量の1/318)よりも重い惑星が多数発見されている。 これらは「スーパー・アース(ホット・スーパーアース)」と呼ばれ、ホット・ジュピターよりもホット・スーパーアースの方が圧倒的に多数存在することが分かる。 これまでの観測から、スーパー・アースの存在確率は太陽型の星で\(\sim 50\%\)と見積もられ、太陽よりも質量の軽いM型星でもこの確率はあまり変わらないと考えられる。 現在の検出限界以下(図の右下に天体が無いのは検出限界のためである)の星を考えると、ほとんど全ての星に地球サイズの惑星が存在し、大半の惑星系でスーパー・アースやアースが複数存在すると思われる。
これまでに検出された系外惑星の惑星質量(横軸)と軌道離心率(縦軸)の関係。(exoplanets.org)
これまでに検出された系外惑星の惑星質量(横軸)と軌道離心率(縦軸)の関係を右図に示す。 軌道離心率は惑星軌道が円に近いか、扁平な楕円軌道かを示す数値であり、軌道離心率が0の時に軌道は真円、1に近づくほど軌道の扁平率は大きくなる。 (より正確には、中心星に近付いた時と遠ざかる時で距離が\(\pm\)何%変わるかを示す数値である。)
古典的標準モデルでは、ガス円盤(原始惑星系円盤)中で惑星が形成されることにより、惑星軌道の離心率は0に近い筈である。 しかし実際には、図に見られる通り離心率の大きな惑星が多数発見される。 特に質量の大きな惑星ほど、離心率の大きな惑星が多く存在する。 これらは「エキセントリック・ジュピター」と呼ばれる。 一方大質量惑星の中で離心率の小さな惑星は主にホット・ジュピターである。 ホット・ジュピターは中心星に近づくと中心星からの潮汐力により惑星の形が歪むことで運動にブレーキがかかり、その結果軌道の離心率が0に近づくと考えられる。
ESAの打ち上げる系外惑星探査衛星ARIEL(2028年打ち上げ予定)の計画採択を祝う研究会冒頭での、計画責任者 Giovanna Tinetti の発表の様子。“Huge Diversity”とは、今日の系外惑星研究の問題点を端的に示す表現としてあまりに適切である。(Jayne Birkby)
発見された系外惑星の中で、多くの惑星は古典的標準モデルでは説明出来ない性質を持っていた。
ホット・ジュピターは中心星に近い領域に存在する巨大ガス惑星であるが、古典的標準モデルでは内域で巨大惑星は作れない。 「惑星落下問題」により、惑星は出来てから移動する (planetary migration) ため、外域で生成したガス惑星がガス円盤との相互作用で内域まで移動し、ガス円盤の消失した領域で止まったと考えることは可能である。 しかしこの考え方でホット・ジュピターは説明出来るが、一方で多くのガス惑星は1auより外側にあることを説明出来ない。
エキセントリック・ジュピターは、軌道離心率の大きな軌道を取る惑星である。 しかし古典的標準モデルに拠れば、惑星はほぼ円軌道を取る筈である。 説明の1つの有力な説として、三体問題による惑星軌道の散乱が挙げられる。
複数の質量が同程度の天体が互いに引力を及ぼし合いながら運動する場合、2天体の場合安定な軌道を取れるが、3天体の場合その軌道が不安定となる。 これを三体問題と呼ぶ。 以下の動画の例は制限付き三体問題(青と赤の天体は円軌道)だが、黄色の軌道は非常に不安定になる
原始惑星系円盤中で3個以上のガス惑星が形成された場合、互いの相互作用により多くの場合1つが弾き飛ばされ、星間空間を漂う浮遊惑星 (lonely planets) となる。 残り2つの惑星は軌道が大きく歪み、外側と内側に飛ばされて残る。 この考え方によれば、離心率が大きい惑星は重い惑星ほど多いとする観測結果も説明可能である。 内側に飛ばされたガス惑星は、中心星に近づくと潮汐力により軌道は再び円に近づく。 この時内側の地球型惑星のほとんどは、ガス惑星との相互作用により中心星に叩き込まれるか、系外にはじき飛ばされる。1 すなわち地球が生き残ったのは太陽系のガス惑星が木星と土星の2天体であったからと考えることが出来る。
3個以上のガス惑星が形成されるには、原始惑星系円盤が重たく十分な量のガスや塵を含む必要があり、中心星が重たい場合に多く見られると考えられる。
ケプラー衛星に搭載されたCCDカメラ。このカメラではくちょう座の方角を定点観測し、星が惑星に隠される僅かな光量の変化を捉える。(Credit: NASA and Ball Aerospace)
ケプラー衛星の観測領域。はくちょう座の一方向を観測し、衛星姿勢制御装置に不具合が発生した後も、観測方向をシフトしながら観測を継続した。(NASA/AMES RESEARCH CENTER/WENDY STENZEL)
ケプラー衛星の観測領域の銀河系空間に於ける拡がりを示す。銀河系内空間に比較して非常に限られた領域のみを観測し、それでも数千個の系外惑星の検出に成功した。(GIGAZINE)
今日、系外惑星の探査で大きな成果を挙げているのは、専用の人工衛星を用いた観測である。 その最初の(大)成功例が、NASAの打ち上げたケプラー(Kepler)である。
ケプラーはトランジット法により系外惑星探査を行う専用の人工衛星であり、NASAにより2009年3月6日に打ち上げられた。 2018年11月15日に観測を終了するまでの間に数千個の系外惑星を発見している。 その観測領域ははくちょう座の方角の1方向に過ぎず、銀河系内空間のごく一部を観測したに過ぎない(右図)。 にもかかわらず数多くの系外惑星を発見出来たことから、太陽系の様な惑星系は銀河系内でごくありふれた存在と考えられる。 恐らくは太陽程度やそれよりも軽い星のほとんどが地球サイズの惑星を有し、その数は銀河系全体で100億個にも上ると期待される。
ケプラー衛星は、姿勢制御用の燃料枯渇により2018年に運用を終了した。 運用終了の“goodnight”コマンドが送信されたのは2018年11月15日であったが、この日は“たまたま”ケプラーの死後388周年に当たる(ケプラー; 1571年12月27日 – 1630年11月15日)。
系外惑星探査の計画中のミッション(IMAGE CREDIT: NASA,ESA: T. WYNNE/JPL, COMPOSITED BY BARBARA AULICINO.)
ケプラー衛星の大成功を受け、現在の学問的興味は「系外惑星が存在するか」ではなく、「地球と同等の環境を持つ生命居住可能な惑星の発見」「生命居住可能な惑星に於ける生命存在の証拠の探索」へと移っている。 その為に多くの人工衛星ミッションが計画されている(右図)。 系外惑星探査専用の衛星計画は以下の通りである。
ケプラー衛星により、地球型惑星の存在確率はかなり大きいことが分かった。 次の目標は、太陽系からなるべく近い場所に生命の存在可能性のある惑星を発見し、それを詳細に調べることである。 このためTESSは、ケプラーとは異なり全天の星(ただしケプラーよりは近傍の星)を観測し、生命誕生の候補となる系外惑星の検出を目指す。 引き続くCHEOPSとPLATOは、対象となる惑星や母星を詳しく観測することで、生命誕生の可能性が高い惑星の候補を絞り込む。 そしてARIELは惑星の大気の組成を調べることで、生命居住の直接の証拠となる大気成分の検出を目指す。
中心星の質量に応じた、ハビタブル・ゾーンの中心星からの距離。(Sara Seager 2013, Science, 340, 6132)
これまでに見つかっている、ハビタブル・ゾーンに存在すると期待される系外惑星。(Chester Harman via Wikimedia Commons)
これまでに見つかっている、ハビタブルと期待される系外惑星と太陽系の各惑星の公転周期の比較。Planetary Habitability Laboratory/University of Puerto Rico at Arecibo
これまでに見つかっている、ハビタブルと期待される系外惑星の一覧。(Planetary Habitability Laboratory/University of Puerto Rico at Arecibo)
「地球に最も似ている」とされる系外惑星Kepler-186f, 452b。(NASA/JPL-CalTech/R. Hurt)
惑星系TRAPPIST-1。各惑星に地球の250倍の水が存在するとされる。(NASA/JPL-Caltech)
TRAPPIST-1と太陽系それぞれの各惑星の密度の比較。(NASA/JPL-Caltech)
Google機械学習により同定された系外惑星Kepler-90。大量の観測データを処理するために、最近は機械学習(AI)の利用も盛んである。(NASA/Ames Research Center/Wendy Stenzel)
系外惑星に生命の存在を探すことは、今日の天文学の大きなテーマの1つである。 そのためには先ず、生命の存在条件を満たす惑星を探す必要がある。 この様な惑星を生命存在可能な惑星との意味で、“ハビタブル惑星”と呼ぶ。
生命存在の条件としては様々の可能性が考えられるが、地球型の生命を考える場合には、液体の水が存在することが条件となろう。 惑星に液体の水が存在出来る中心星からの距離の範囲を“ハビタブル・ゾーン”と呼ぶ。 液体の海が存在出来る条件は、 1)惑星の表面温度が0℃~100℃の間にあること、 2)重力が強く、十分な了の大気が存在できること(温室効果で表面温度を一定の範囲に保つことが可能)、 が重要と考えられる。 例えば火星はハビタブル・ゾーンに入っているが重力が弱いため大気は地球の1/100以下であり、そのため惑星表面の温度は氷点下である。2 但し火星の場合惑星サイズが小さいために内部が冷え切ることでプレートテクトニクスが早期に停止し、大気を供給する火山の噴火が無くなったことが遠因である。
中心星が太陽程度(\(1 \mathrm{M}_{\odot}\))の星の場合、ハビタブル・ゾーンの太陽からの距離は\(r = 0.9 \sim 1.5~\mathrm{au}\)と見積もられる。 但しハビタブル・ゾーンの外側の距離は惑星大気の温室効果の影響により不定性が大きい。 これまでの観測の結果、\(1 \mathrm{M}_{\odot}\)の星の\(10 \sim 20\%\)に、地球サイズのハビタブルな惑星が存在と考えられる。
中心星が軽いM型星(太陽はG型星)の場合、ハビタブル・ゾーンが中心星に近いため、ハビタブル・ゾーンに存在する系外惑星の検出が容易となる。 このためこれまでに検出されたハビタブル(と期待される)系外惑星の大半はM型星の周囲に存在する。 これまでの観測から推定すると、ハビタブルな惑星は銀河系全体でG型星の周囲に110億個、M型星を含めると400億個程度存在すると見積もられる。 すなわち、銀河系全体では地球の様な惑星がおよそ数百億個存在していると考えられる。
2019年6月に検出が発表された、史上最も「地球に似た環境の惑星」。太陽系からの距離12.5光年。(Science alert, 19 Jun 2019)
水が液体である以外にも、生命の誕生・維持のためには、惑星の気候が安定している必要がある。 これまでに検出されたハビタブルな系外惑星の大半はM型星の周囲に存在するが、中心星に近いことが影響し、惑星環境は地球のそれとはかなり異なる可能性がある。 TRAPPIST-1の惑星に存在するとされる大量の水であるが、その“海”の深さは100kmを超えると考えられ、陸地は存在しないと思われる。 詳しくは次章に述べるが、海だけの惑星では水蒸気による温室効果のみが強く効くため、大気温が安定することは難しい。 また中心星に非常に近い軌道の惑星は、潮汐力により常に同じ側を中心星に向けていると考えられる(月が地球に対し常に同じ面を向けているのと同じ理由である)。 このため“昼”の側は常に中心星からの輻射で非常に高温となり、一方“夜”の側は中心星からの光が届かず極寒となる。 生命居住可能な領域は昼と夜の境目の僅かな領域かも知れない。 更には中心星に近いことから、中心星表面のフレアによる高エネルギー粒子の影響に強く晒されると考えられる。 星は質量が軽い程星の表面に対流層が発達し、そのため表面の磁場が強い傾向にある。 このため表面のフレア活動は、質量の軽い星ほど活発となる。 質量の軽いM型星の近くを周回するハビタブル惑星の環境は、地球に比べて非常に過酷なものである可能性がある。 今後計画されている系外惑星探査計画が、水が液体であるハビタブル条件だけでなく、中心星の安定度などの、惑星の気候を左右する条件を詳しく調べようとしているのはそのためである。
プロキシマ・ケンタウリに観測された巨大フレア。(ALMA)
水が液体である以外にも、生命の誕生・維持のためには、気候が安定的であることや、生命活動のためのエネルギー源の供給といった様々な条件が考えられる。 これらの要素は、太陽系内の各惑星の環境を詳細に観測することで研究されて来た。
大気中の温室効果ガスによる気候の安定化はその一例である。 二酸化炭素は、地球気候の安定化に重要な役割を果たしている。 火山活動(火山ガス)などにより大気中に供給された二酸化炭素は、海水中のミネラル成分(イオン)と反応し、炭酸塩となって海底に沈殿する。 沈殿した炭酸塩はプレートテクトニクスにより地球内部に還り、再び火山活動により大気中に放出される。 数十万年かけてこのループが繰り返されることにより、大気中には安定的に二酸化炭素が供給される。
地球気候が温暖化すると、雨が盛んに降る(降水量が増える)ことにより、陸地から海水へと供給されるミネラル成分が増える。 その結果海水中のイオンと反応することで大気中の二酸化炭素は減少する。 二酸化炭素が減少することで温室効果が減り、地球気候の温暖化が抑制される。
気温が低下した場合には、雨が減ることで海水へのミネラル供給が減り、大気中により多くの二酸化炭素が残ることで温室効果が上昇し、気候は温暖化する。
これらの効果により、地球気候の温度変化が抑制される。 変化を抑制する効果のことを、「負のフィードバック」と呼ぶ。 二酸化炭素は「負のフィードバック」として働くことで、地球気候を安定化させる。
ただし上記の二酸化炭素のループの一部が働かないと、「負のフィードバック」が働かず、二酸化炭素による温室効果が暴走する。 例えば金星には、二酸化炭素のフィードバックに必要な<液体の水・陸地(水の循環)・プレートテクトニクス>のいずれもが存在しない。3 金星にはプレートテクトニクスが存在しないと考えられるが、これは金星に液体の水が存在出来ず、そのため大陸プレート同士の間に入り込んだ水の潤滑が得られなかったことが理由と考えられている。 その結果、金星大気中の二酸化炭素濃度は地球大気の20万倍であり、地表面の平均気温は\(470^{\circ}\mathrm{C}\)に達する。 現在地球温暖化として喧伝される二酸化炭素による温室効果の認識は、金星大気の研究から得られたものである。
水蒸気も、地球環境に影響を与える温室効果ガスとして重要である。 水蒸気は主に海から供給される。 このため気候が温暖化すると、海面から蒸発する水蒸気が増え、温室効果が促進されることで、更なる温暖化が引き起こされる。 一方気候が寒冷化すると、海面からの水蒸気蒸発量が減り、温室効果が減ることで気候は更に寒冷化する。 即ち水蒸気による温室効果は二酸化炭素とは異なり、「正のフィードバック」として働き、気候変動を増大させる効果を持つ。 このため海だけで大陸の無い惑星は、二酸化炭素の調整に寄与するミネラルの供給が無い一方で水蒸気による正のフィードバックのみがかかり、気候は不安定と考えられる。
ハビタブルゾーンの外側の限界はこれらの温室効果ガスの供給により決まる。 特に低温側では二酸化炭素が重要である。 気候が寒冷化すると、水蒸気の供給は減少する一方、二酸化炭素は海水中のミネラルにより取り除かれる量が減ることで大気中の量は増大し、気候を維持する。 しかし中心星からの距離が太陽–地球間距離の\(>1.4\)倍になると、大気中の二酸化炭素が多くなりすぎて気体として存在出来なくなり、余剰分は雲になってしまう。 そのためそれ以上の温室効果が得られなくなり、惑星はハビタブル・ゾーンを外れる。
火星の場合、大気の供給が早期に停止したことが、火星がハビタブル・ゾーンを外れている原因と考えられている。 火星の大気圧は地球の0.6%であり、大気成分のほとんどが二酸化炭素である。 火星は質量が地球の1割程しか無く、太陽系形成後の早い段階で内部まで冷え切ってしまったことで、プレートテクトニクスが早期に停止したと考えられる。 プレートテクトニクスが停止すると火山活動が起こらなくなり、その結果大気の供給源が枯渇する。 またマントル対流が無くなることで惑星磁場が消失し、太陽風の影響を直接受けて惑星表面からは大気が剥ぎ取られて行く。 以上の結果、惑星大気が失われ、温室効果が消失したことで、火星の現在の平均気温は\(-60^{\circ}\mathrm{C}\)となっている。4 火星大気は地下に凍結しており、火星の表面温度を人工的に上昇させることで凍結した大気を蒸発させ、居住可能な環境を実現(復活)させるという考えも以前はあったが、この考えは現在では否定される。
主系列星の光度進化
地球のハビタビリティの変化。(「土星の衛星タイタンに生命体がいる!」関根康人、小学館)
地球は現在太陽のハビタブル・ゾーン内に存在する。 太陽は主系列星であり、その光度は短期的には0.1%程度しか変化せず、非常に安定している。 しかし100億年の太陽の寿命を考えると、主系列星であっても光度が変化し、その結果太陽周囲のハビタビリティも変化する。
主系列星は中心核で水素を核融合し、ヘリウムを作り続けている。 その結果、水素に比べ重たい元素であるヘリウムの含有量が中心核で増え、中心核のガスの密度が徐々に上昇する。 密度が上昇することで核融合活動は活発化し、結果太陽の温度は少しずつ上昇する。
誕生直後の太陽は現在よりも30%程度暗かった。5 以前はこの頃の地球はハビタブルでは無かったと考えられ、地球上の生命誕生に対する「若い太陽のパラドックス(young Sun paradox)」と呼ばれている。現在では二酸化炭素の温室効果により、誕生直後の地球も生命誕生に適した気候を維持していたと考えられている。
太陽光度は今後も上昇を続け、現在から10億年後には地球はハビタブルゾーンを外れることになる。6 その頃には火星がハビタブル・ゾーンに入るが、前述の通り火星環境がハビタビリティを獲得することは無いと考えられる。
木星の衛星のエウロパ(Europa; Galileo 衛星による撮影)と土星の衛星エンセラダス(Enceladus; Cassini 衛星による撮影) – (Image Credit: NASA/ESA/JPL-Caltech/SETI Institute)
月に働く地球の潮汐力 (国立天文台)
エウロパとエンセラダスの断面図 (New Scientist)
エンセラダス表面から噴出するガス (NASA/JPL)
木星の4大衛星(ガリレオ衛星: Io, Europa, Ganymede, and Callisto)のイメージ (Image Credit:NASA/JPL/DLR)
ESA Juice ミッション想像図。2022年6月打ち上げ、2030年1月木星到着予定。 (Copyright: Spacecraft: ESA/ATG medialab; Jupiter: NASA/ESA/J. Nichols (University of Leicester); Ganymede: NASA/JPL; Io: NASA/JPL/University of Arizona; Callisto and Europa: NASA/JPL/DLR)
地球の深海底の熱水噴出孔に見られるメタン菌や細菌(JAMSTEC)
地球の深海底の熱水噴出孔に見られるメタン菌や細菌(JAMSTEC)
ハビタブル・ゾーンの外側の天体にも、氷に覆われた表面の下に、液体の水が存在する場合がある。 その代表例が、木星の衛星のエウロパと土星の衛星エンセラダスである。
これらの衛星は、それぞれ木星および土星からの強い重力により、潮汐力を受けて衛星全体が絶えず変形を繰り返している(右図は地球の月に対する潮汐力の例)。 その摩擦熱により、惑星内部が熱せられ、温度が水の融点を超える。 これを「潮汐加熱」と呼ぶ。
その結果、エウロパとエンセラダスの表面を覆う厚さ数十kmの氷の下には、液体の水が存在する。 液体の水は、エウロパの場合には表面の氷に生じた赤いひび割れ(硫酸塩を含む“海水”が凍ったものと考えられる)やイオンを含んだ水分による惑星磁場の乱れ、エンセラダスの場合には更に直接的に、氷の割れ目から吹き出る氷やガスの“プリューム”により、その存在が確認されている。
木星の衛星には、“4大衛星”としてガリレオ衛星と呼ばれる(内側から順に)イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストが存在する。
イオは活発な火山活動により表面は溶岩に覆われている。火山から吹き上がる噴煙は最初NASAのボイジャー衛星により1979年に撮影された。 これは地球外で観測された初めての活火山であった。
エウロパの表面は一面の氷に覆われ、無数の赤いひび割れが確認出来る。 木星磁場との相互作用の観測から、氷の下には液体が存在することが確認されている。 氷の隙間から見える赤い物質は、ナトリウムイオンやマグネシウムイオンの溶け込んだ導電性の “海水”(塩や硫酸塩\(\mathrm{SO_4^{2-}}\))と考えられる。
更に外側のガニメデ、カリストは全ての水が凍っており、液体の水は存在しないと考えられる。
中心星(木星)に近すぎるイオは潮汐加熱が激しすぎて表面は溶岩により覆われ、一方遠すぎるガニメデやカリストは全ての水が凍ってしまっている。 木星からの距離が適当であり、エウロパには、液体の水が存在出来る。 即ち、潮汐加熱によるハビタブル・ゾーンを考えることが出来る。
木星の各衛星を詳しく観測する Juice ミッションが計画されている。 Juiceは2022年6月に打ち上げられ、2030年1月に木星に到着し、エウロパ、ガニメデ、カリストの探査を行う。 エウロパでは、ひび割れの赤い物質の組成(例えば有機物などの生命に必須な分子が存在するか、等)を調査予定である。
土星の衛星エンセラダスでは、氷の割れ目からガスと固体微粒子の“プリューム”が噴出していることがカッシーニ探査機により確認された。 更には同探査機によるガス成分の直接観測が2015年10月28日に行われ、液体の“海”についてエウロパよりも更に多くの事実が明らかとなっている。
エンセラダスのプリュームの組成は水蒸気90%, 二酸化炭素5%, 有機分子1%程度であり、氷に加え、ナトリウムやカリウムを含む固体微粒子が観測される。 これらは、海中で岩石と液体の水とが反応して出来ていると考えられる。 更にはシリカ\((\mathrm{SiO_2})\)の存在も報告されており、シリカの生成条件である岩石と水との高温反応が行われていると考えられる。 メタンやアンモニア等の還元的分子も存在し、硫酸イオン\((\mathrm{SO_4^{2-}})\)はみられない。 硫黄(S)は酸素よりも水素が過剰である場合には硫酸ではなく硫化水素\((\mathrm{H_2S})\)として存在するため、これらの測定から、エンセラダスの海水は酸化的(酸素が過剰)ではなく還元的(水素が過剰)な状態と考えられる。 2017年4月にはエンセラダスのプリュームからの水素の検出が発表され、海水が還元的であることが確定的と考えられている。
海水が還元的であることは、生命の存在にとって重要である可能性がある。 地球上の海底の熱水噴出孔の周りには、水素と二酸化炭素の反応エネルギー(還元性の鉱物の二酸化炭素による酸化エネルギー) \[\mathrm{4H_2 + CO_2 \to CH_4 + 2H_2O}\] を利用して生きる“メタン菌”が存在する。 エンセラダスの海中には、同様のメタン菌が存在する可能性がある。
一方エウロパには海水中に硫酸塩が多く含まれる可能性から、還元性の鉱物の供給が既に枯渇し、海水は酸化的であるとする考えもある。 その詳細はJuice探査機により明らかにされると期待される。
タイタン表面は大気に覆われる。主成分は窒素。数%含まれるメタンが太陽の紫外線により化学反応をお越し、有機分子を生成する。これが表面のオレンジ色のもやとして見える。(Wikimedia Commons)
タイタン表面のメタンの湖(レーダー画像)。メタンの循環により湖の面積が“季節変化”を起こしていることにも注意。(Wikimedia Commons)
タイタン表面のメタンの湖(レーダー画像; Wikimedia Commons)
(液体の)水以外に依存する生命の可能性も検討されている。
タイタンは土星最大の衛星であり、太陽系で唯一、十分な大気が存在する衛星である。 また地球以外で唯一、窒素を主成分(90%以上、残り数%はメタン)とする大気に覆われる天体でもある。
地表温度は\(-190^{\circ}\mathrm{C}\)であるが、これはメタンの気体・液体・固体が共存する“三重点”に近い。 地球に於いては環境温度が水の三重点に近く、その結果水の循環(海水\(\to\)水蒸気\(\to\)降雨)が存在する。 タイタンに於いてはメタンがこの役割を果たし、地球以外の天体で唯一、降雨(メタンの“雨”)が起きている天体である。
その結果、タイタンの表面にはメタンの湖が存在する(右図)。
地球上の光合成では、太陽光のエネルギーを用いて水を酸素と水素に分解し、水と二酸化炭素から炭水化物と酸素が生成される。 \[\mathrm{H_2O + CO_2 → [CH_2O] + O_2}\] 我々は有機物を酸素でもやし、水と二酸化炭素に戻すことで太陽光エネルギーを取り出し、生命を維持している。
タイタンでは太陽光により大気中のメタン\((\mathrm{CH_4})\)が分解され、アセチレン\((\mathrm{C_2H_2})\)と水素\((\mathrm{H})\)が生成されている。 例えば、アセチレンを食べて水素を呼吸する生命を考えることは理論上は可能である。
地球は「水の惑星」と表現される様に、水が存在し、それが生命誕生に重要な役割を果たしたと考えられる。 しかし地球の水の起源は未だ明らかとなっていない。
宇宙の元素組成は多いものから順に水素、ヘリウム、酸素、炭素、ネオン、窒素、マグネシウム、ケイ素、鉄、硫黄、… であり、水を作る水素と酸素や、生命を形作る炭素や窒素は宇宙には豊富に存在する。 しかしこれらを惑星形成の際に惑星に取り込むためには、原始惑星系円盤中でダスト(固体微粒子)上に凝縮し、固体となるる必要がある。 固体となれずガスのままの場合、岩石惑星には取り込まれることが出来ない。 ガスを大量に取り込めるのは巨大ガス惑星のみである。
例えば、地球には水素は非常に少なく、ヘリウムもほとんど含まれていない。 ヘリウムが最初に発見されたのは、その名の示す通り、地上ではなく太陽表面のフラウンホーファー線の観測からであった。
水が氷として凝集出来るのは、太陽系では火星軌道の外側の小惑星帯の更に外、約3auの距離にある雪線よりも外側である。 二酸化炭素などの炭素化合物やアンモニアなどの窒素化合物が凝縮出来るのは、天王星軌道(\(\sim 20\)au)よりも外側である。 従って地球の水・炭素・窒素の含有量は、これらが単純に地球形成の際の衝突・合体を通じて取り込まれたと考えることは出来ない。
地球は表面を豊富な水に覆われ、「水の惑星」と捉えられる。 しかしながら地球の海の総質量は地球全体質量の0.02%に過ぎず、マントルの岩石中に含まれる水を足し合わせても、その総量はたかだか0.1%程度と考えられる。 すなわちね地球は水の惑星とは呼べず、総量で言えば極わずかの水を保有するに過ぎない。 例えば地球の海の平均水深は4km程度であり、これは地球半径6400kmに比べれば「薄皮1枚」に過ぎないと言える。 同様に炭素・窒素の存在比の推定値は、地球の値は太陽での存在比の\(1/1000 \sim 1/10万\)である。
地球に水を持ち込むアイディアは様々議論されているが、地球形成後に氷を含んだ小天体が衝突し、これが水をもたらしたとする説が有力視されている。 太陽系の雪線の外側で生成した小天体は、内部に氷の水を多く含む。 これが例えば外惑星からの影響により軌道を乱され、雪線より内側に入ると、天体表面からは氷成分が徐々に昇華(固体から気体となること)する。 その昇華速度は年間で厚さ1cm程度と見積もられ、従ってサイズ1kmの小惑星ならば、10万年程度は氷成分を維持出来ることになる。 この間に地球と衝突し、地球に水をもたらすとする考え方である。
地球と衝突する小天体としては彗星の可能性も検討されたが、酸素・窒素同位体比が地球と異なることが判明し、現在では小天体(小惑星)とする考え方が主流である。7 但し最近でも彗星を起源とする説を支持する観測結果も発表されている。 これは隕石(小惑星帯から飛来する破片)中に存在する水の同位体比が、彗星よりは地球に近い値を持つことに因る。 中でも炭素質コンドライト(隕石の一種)は内部に10%程度の水を含むため、C型小惑星(炭素質コンドライトの元)が地球に水を運んだと考える研究者が多い。
水を持ち込むその他のアイディアとしては、例えば雪線は3auの距離で一定ではなく、太陽系形成初期にはより内側にあったとする考え方もある。 形成直後の原始惑星系円盤は高温であり、雪線は現在よりも更に外側にある。 やがて原始惑星系円盤が冷えると、初期の原始惑星系円盤はガスが豊富なため、中心星からの光を遮ることで、雪線は地球軌道よりも内側に来る。 この時に地球に水が凝集されたとする考え方である。 但しこの考え方によっても、炭素や窒素までを凝縮させるのは困難である。 また雪線の移動以外にも、雪線の内側の小天体でも、ダストの内部に守られて少量の氷が存在し、岩石惑星に取り込まれると考える研究者も居る。
小惑星イトカワ表面に写ったはやぶさ衛星の影。(ISAS/JAXA)
はやぶさが小惑星イトカワから持ち帰ったサンプル。(ISAS/JAXA)
小天体を水の起源とする考えを検証するために、小惑星の物質を直接持ち帰る「サンプルリターン」が行われている。 この計画で世界をリードしているのが、日本の「はやぶさ」計画である。
はやぶさは2003年に打ち上げ、2005年夏に小惑星「イトカワ」に到着した。 その後サンプリングを経て、2010年6月13日に地球に帰還し、世界初の小惑星サンプルリターン成功例となった。
しかしながらイトカワはS型小惑星に分類され、小惑星全体が熱変性を受ける(加熱される)ことで、含水成分は失われていることが当初から予想されていた。 地球の水の起源を探るには、熱変性を受けていないより始原的な天体と考えられる、C型小惑星のサンプルリターンを成功させる必要がある。
この目的の下、現在日米の2つのミッションが実行中である。 日本の「はやぶさ2」は、C-typeの小惑星であるリュウグウを目指し、2014年12月3日に打ち上げられ、2018年6月27日に小惑星に到着した。 その後サンプリング作業を経て、2019年に小惑星を出発し、2020年末に地球に帰還する予定である。 NASAの実行するOSIRIS REx (Origins, Spectral Interpretation, Resource Identification, Security, Regolith Explorer)は、C型小惑星ベンヌを目指して2016年9月8日に打ち上げられ、2019年10月19日に到達する予定である。 その後2021年3月21日に小惑星を出発し、2023年9月24日の地球帰還が予定されている。
既に日米双方のチームから、それぞれの小惑星表面に水(含水鉱物)の存在を確認したとする発表がなされている。
NASAの発表した、C型小惑星表面の含水鉱物の検出。
「あかり」によるC型小惑星のスペクトル観測。緑矢印が含水鉱物に起因する吸収、青矢印は水やアンモニア化物に起因する吸収である。(ISAS/JAXA)
「あかり」によるC型小惑星の加熱脱水過程の検出。(ISAS/JAXA)
また日本の赤外線衛星「あかり」による観測から、C型小惑星の内部でも水の含有量に違いがあるという観測結果も得られている(右図)。
はやぶさ2のスケジュール(ISAS/JAXA)はやぶさ2の現状(はやぶさ2プロジェクトページ)
はやぶさ2の軌道(ISAS/JAXA)
惑星大気スペクトル観測の概念図(Credit: NASA/JPL-Caltech)
地球大気のスペクトル(Kaltenegger, & Traub 2009, ApJ, 698, 519)
金星、地球、火星の大気スペクトルの比較(Credit: Mark Elowitz)
太陽系天体のスペクトルの多様性(Albedos of solar system bodies. Image credit: Jack Madden & Lisa Kaltenegger / Carl Sagan Institute, Cornell University.)
TMT想像図(NAOJ)
TMT想像図(NAOJ)
光学望遠鏡の口径の変遷
系外惑星のハビタビリティを確認すると、次の目標は系外惑星の生命の存在を観測することである。 その為に、生命活動の結果生じるなんらかの物質「バイオマーカー」を観測することが検討されている。
バイオマーカーの代表例は、生命の代謝活動に関係するものである。 例えば以下のものが挙げられる。
例えば酸素は、地球上の光合成 \[\mathrm{H_2O + CO_2 → [CH_2O] + O_2}\] により生じる。 水を太陽光で酸素と水素に分解し、水素と二酸化炭素により有機物を生成する。 一方我々消費者は、有機物を酸素で燃やし、水と二酸化炭素に戻すことで太陽光エネルギーを取り出して生命を維持している。
メタンは、メタン菌によるメタン生成反応 \[\mathrm{4H_2 + CO_2 \to CH_4 + 2H_2O}\] により生じる。 メタン菌存在の条件としては、
が挙げられる。
但し、酸素・メタン共に、生命活動に寄らずとも生成の可能性がある。 (「バイオマーカー」が生命活動からのみ生ずるとは限らない。) 酸素\((\mathrm{O_2})\)やオゾン\((\mathrm{O_3})\)は、紫外線による水\((\mathrm{H_2O})\)の分解で生成可能である。 (この時水素も生じるが、水素は軽いため、大気からすぐに失われてしまう。) メタン\((\mathrm{CH_4})\)は、巨大ガス惑星なら水素が大気中に存在し、炭素との科学反応で生成可能である。
ただし、酸素・メタンの両者が共存することは難しい。 水素やメタンの存在するガスは還元的であるのに対し、酸素の存在するガスは酸化的であるためである。 従って両者が共存すれば、何らかの生命活動により少なくとも何れかの物質が継続的に供給されているとする示唆が得られる。 すなわち大気が非平衡状態にあることが分かれば、生命活動の傍証となり得る
他には、葉緑素の可視光と赤外光の反射率の違い(“red edge”と呼ばれる)を用いる方法等が提案されている。
系外惑星の大気のスペクトル分光により、大気中のバイオマーカーを探索するためには、主星の明るい光を避け、惑星大気のスペクトルを得る高精度(高空間分解能)の望遠鏡が必要である。 このため既存の口径10mクラスの大望遠鏡(VLT, Gemini, Subaru)を用いる計画、専用の衛星望遠鏡(ARIEL)を用いる計画、地上に新たに口径30mクラスの望遠鏡(TMT他)を建設する計画が進行している。 望遠鏡口径30mの場合、各分解能の理論限界値は
\[\begin{align} \lambda/D &= 10\mu\mathrm{m}/30\mathrm{m}\\ &= 3.3\times 10^{-7} ラジアン\\ &= 0.069 秒角\\ \end{align}\]となる。 中心星から1au離れた“地球”を1pcの距離から観測するとき、その角度は1秒角となる(パーセクの定義である)。 従って口径30mの望遠鏡を用いると、 10pc先の0.7au離れた天体を見分けられることとなり、 即ち10pc先の「地球」を直接観測し、大気組成を調査することが可能である。 (あるいは観測波長\(2.5\mu\mathrm{m}\)なら、\(40\mathrm{pc}\)の天体でも観測可能である。)
つい最近まで、地球外生命探査は夢物語とされ、学問として研究する対象とは見なされて来なかった。 しかし昨今の系外惑星の発見ラッシュ、特に地球に似た環境を持つ系外惑星の発見に促され、地球外生命を真剣に追求する学問「アストロバイオロジー」が急速に本格化している。 例えば2012年に開設された東工大地球生命研究所(ELSI)や、国立天文台に2015年に設立されたアストロバイオロジーセンターが代表例である。
今や地球外生命は「存在するかどうか」ではなく、「誰が最初にその存在を確認するか」であり、多くの天文学者が今後10年以内にその存在が確認されると期待している。