宇宙科学I (文科生)

宇宙の創世

土井靖生

2020/1/10

今回のポイント

  • 宇宙は「ビッグバン」により始まった
    • 宇宙膨張・元素合成・宇宙背景放射の3つをきれいに説明
  • 近年はより詳細な観測により、ビッグバン宇宙論はますます確実視されている
    • 宇宙は「通常の物質」「ダークマター」「ダークエネルギー」から成る

膨張宇宙論

アインシュタイン方程式 一般相対性理論 (Einstein 1915)

\[\begin{align} G_{\mu\nu} &= \frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu} \\ 空間の曲率 &= エネルギー分布 \end{align}\]

(\(E=mc^2\)より、物質とエネルギーは等価であることに注意。)

重力で引き合い宇宙は潰れてしまい安定に存在出来ない。

「宇宙項」の導入 (Einstein 1917)

\[\begin{align} G_{\mu\nu} + \color{red}{\Lambda_{g_{\mu\nu}}} &= \frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu} \\ 空間の曲率 + \color{red}{宇宙項} &= エネルギー分布 \end{align}\]
  • 宇宙項:重力に逆らって空間を押し広げる力
  • 安定した宇宙(静止宇宙)を実現するために導入
    • 後に取り消す

膨張する宇宙の予言 (Friedmann他 1922)

  • 宇宙空間が膨張・収縮を続けると考える
  • 宇宙の物質総量(と最初の膨張速度)で宇宙の運命が決まる
    • 宇宙は永遠ではない

宇宙膨張の発見

ハッブルによる銀河後退の観測 (Hubble 1929)

横軸はセファイドから求めた距離: \(10^6\), \(2\times 10^6\) pc \(= 326万,~652万光年\)

このグラフの傾き:「ハッブル定数」\(\left( \mathrm{km\ s^{-1}\ Mpc^{-1}} \right)\)

宇宙の膨張による銀河の後退

  • 静止宇宙 vs. 膨張宇宙 \(\to\) 膨張宇宙論の確立

宇宙膨張の発見者

  • ハッブルの論文発表は1929年
  • ジョルジュ・ルメートルが同様の結果を1927年に発表

宇宙膨張の発見者(続)

  • 1931年に英王立天文学会月報 (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society) の招きで論文の英訳を発表
    • 宇宙膨張に関する個所が何故か削除される
  • 削除はルメートル自身の希望だったことが確認される
    (Livio 2011, Nature, 479, 171–173)

「ハッブル-ルメートルの法則」

  • 「宇宙の膨張を表す法則は今後『ハッブル-ルメートルの法則』と呼ぶことを推奨する」(2018年10月 国際天文学連合による決議)
  • 「ハッブルの法則」を「ハッブル-ルメートルの法則」に次第に移行することを推奨 (2018年12月26日 日本学術会議提言)
    1. 学校教育で用いられる教科書における記述変更は直近の改訂時に対応する。それまでは教科書に対する特別の補充資料は作らず、現場での解説で対応する。
    2. 各種試験で、宇宙膨張の法則の名称そのものを問うて、『ハッブルの法則』か『ハッブル-ルメートルの法則』かによって解答の正否が分かれるような問題は出さない。
    3. 学校教育現場に限らずしばらくの期間は、『ハッブルの法則』と『ハッブル-ルメートルの法則』のどちらが使われていても問題とはしない。
    4. 一般書やマスコミ等の記述、講演会などで用いる名称は担当者次第であるが、IAU 決議の趣旨を踏まえて『ハッブル-ルメートルの法則』を用いることが望ましい。

“ハッブル定数”と宇宙の年齢

ハッブル定数の最新値

宇宙の年齢

  • Planck Collaboration et al. (2018) によるハッブル定数の値: \(\mathrm{H}_0 = 67.66 \pm 0.42~\mathrm{[km~s^{-1} Mpc^{-1}]}\)
  • \(1~\mathrm{[Mpc]} = 3.09\times 10^{19}~\mathrm{[km]}\)
  • 宇宙の年齢
    \(\simeq \frac{1~\mathrm{[Mpc/km]}}{\mathrm{H}_0} = 4.6\times 10^{17}~\mathrm{[s]} = 1.4\times 10^{10}~ \mathrm{[yr]}\)

宇宙の年齢は約140億年

“火の玉宇宙論”と元素合成

初期宇宙の元素合成 (Gamow他 1948)

  • 宇宙膨張から考えると初期宇宙は高温高密度の中性子のスープ
    • ルメートルの宇宙像を支持
    • 「火の玉宇宙」と呼ぶ
    • 宇宙背景放射の存在を予言(予想温度5K)
  • 膨張と共に中性子が\(\beta\)崩壊により陽子に転化し、核反応によって次々と重い原子核が形成されるはず

\(\alpha-\beta-\gamma\)理論 (Gamow他 1948)

  • \(\alpha\)\(\beta\)\(\gamma\)理論」と呼ばれる
  • 実際には Bethe はこの論文に貢献しておらず、Gamow が語呂合わせのために連れてきた
  • 陽子–中性子比の正確な計算 (林 1950)

    • 宇宙年齢\(< 1\)
      • 温度は\(T\gg 10^{10}\ \mathrm{[K]}\)
      • 中性子と陽子は互いにバランス(右の林論文の式)
      • n/p比は\(\sim 1\)
    • 宇宙年齢\(\simeq 1\)
      • \(T\simeq 10^{10}\ \mathrm{[K]}\)
      • \(\frac{n}{p} \simeq \frac{1}{6}\)となる
    • 宇宙年齢\(\simeq 100\)
      • \(T\sim 10^{9}\ \mathrm{[K]}\)
      • 中性子は崩壊し\(\frac{n}{p} \simeq \frac{1}{7}\)

    “Naniwa University”は現在の京都府立大

    林忠四郎は他に原始星の進化

    惑星系形成モデルで重要な仕事

    元素合成の開始

    • \(T\sim 10^{9}\ \mathrm{[K]}\)で中性子が陽子と結合
    • 水素より重い元素合成が開始
    • 中性子は大半がヘリウム(陽子2+中性子2)となる
    • \(陽子:中性子 \simeq 7:1\)より、\(水素:ヘリウム(個数比)\simeq 12:1\)
      • ヘリウムの予測存在比: 約8%(個数比)、約25%(質量比)
      • 現在の観測値(7.8%, 24.7%)と良く合う
    • 水素、ヘリウムの大半は宇宙の誕生時点で作られた
    • ここまで宇宙誕生から約3分間

    宇宙背景放射

    定常宇宙論 (Hoyle他 1930–1965)

    • 宇宙膨張の発見により「静止宇宙論」は衰退
    • 「無」から定常的な物質の湧き出しにより「膨張はするが密度は一定(定常)」とする「定常宇宙論」が提唱される
    • Fred Hoyle が急先鋒
    • 火の玉宇宙論を“Big Bang theory”と揶揄する (BBC radio ,Third Programme, broadcast on 28 March 1949) \(\to\) Gamow に気に入られ採用
    <span style="font-size:16px;position:relative;top:-60px">[BBC](http://www.bbc.co.uk/science/space/universe/scientists/fred_hoyle)</span>

    BBC

    宇宙の「晴れ上がり」

    • 宇宙背景放射の予測 (Gamow 1948)
    • 濃い電離ガス(ex.太陽の中)の中は光はまっすぐ進めない\(\leftrightarrow\)外からは太陽の表面しか見えない
    • 薄い電離ガス(ex.星雲)の中は光は進める\(\leftrightarrow\)外から星雲の中が見える
    • 宇宙の密度が十分下がったところは見通せる。それ以前は「見えない」。
      • 程なくガスは中性化
      • 星の表面の様に見える
      • 温度約3000[K]の黒体輻射
      • 宇宙年齢\(\simeq 38万年\)
      • 宇宙の膨張と共に波長が伸びる\(\to\)現在は約3Kの黒体輻射として見える(宇宙が1000倍に膨張)

    宇宙背景放射の発見 (Penzias & Wilson 1965)

    • ベル研の研究者
    • 目的は「アンテナの高性能化」
    • 原因不明の信号を発見(1964年5月20日が初検出)
      \(\to\) ビッグバンの痕跡「宇宙背景放射」

    A Measurement of Excess Antenna Temperature at 4080 Mc/s.

    Penzias & Wilson 1965, ApJ, 142, 419

    直前に載っているのは“Cosmic Black-Body Radiation.”(Dicke, Peebles, Roll, & Wilkinson 1965, ApJ, 142, 414)

    宇宙背景放射の観測

    各周波数で見た宇宙

    • ここから太陽系内や銀河系内の天体の出す輻射を取り除いたものが「宇宙背景放射」

    宇宙背景放射のスペクトル

    • 観測されるスペクトルは“ほぼ完璧”な黒体輻射
      • 温度2.725K

    宇宙背景放射の揺らぎ

    • 背景放射は「ほぼ」一様分布
      (宇宙のどの方向も同じに見える)
    • 晴れ上がり時点の密度分布が
      「ほぼ」一様だったことを示す
    • このままでは銀河が出来ない
      • 場所ごとに密度の違い(揺らぎ)が
        いくらかはあったはず
    • 晴れ上がり時点で密度揺らぎがあれば、
      背景放射の温度の揺らぎとして見えるはず
    • COBE衛星により初検出(1992)
      • Smoot & Mather 2006年ノーベル賞受賞

     

    観測された揺らぎ

    Planck Collaboration et al. 2016, A&A, 594, id.A1

    宇宙の加速膨張

    加速膨張の発見

    • Ia型超新星が予想よりも暗く見える
    • 星間塵による吸収では説明出来ない
      • 遠くの超新星は逆に明るく見える
    • アインシュタインの「宇宙項」の復活!?

    背景放射の
    揺らぎのスペクトル

    空間の揺らぎ

    バリオン音響振動の伝搬

    銀河の二体相関関数

    宇宙背景放射の揺らぎスペクトル

    スペクトルと宇宙の構成の関係

    宇宙の質量-エネルギー構成比

    Planck Collaboration et al. 2018

    宇宙の年齢

    \(137.87 \pm 0.20\) 億年 (Planck Collaboration et al. 2018)

    インフレーション宇宙モデル

    宇宙の地平線問題

    • 背景放射温度がほぼ一様
      \(\to\)宇宙はどこも一斉に晴れ上がった
    • 宇宙誕生後38万年
      \(\gets\)光が進めるのは我々が見る角度で\(\leq 3^\circ\)
      • これより大きなスケールが一様になることは不可能

    宇宙の平坦性問題

    • 宇宙の密度が少しだけ小さい\(\to\)膨張が早すぎて原子同士が結合できない(「開いた宇宙」)
    • 宇宙の密度が少しだけ大きい\(\to\)宇宙がすぐに収縮に転じてしまう(「閉じた宇宙」)
    • 宇宙が「平坦」であるためには、あまりにも不自然なファインチューニングが必要

    インフレーション理論

    • 最初小さかった宇宙を急激に引き伸びしてしまえば良い
      • 地平線問題\(\to\)互いにすぐ近くに居た領域が引き離されたと思えばよい
      • 平坦性問題\(\to\)元々曲がっていた空間が大きく引き伸ばされて平らになったと思えば良い
    • 宇宙誕生後\(10^{-36}\)秒の間に空間が\(> 10^{28}\)倍に引き伸ばされたとされる
      • 原子核一個を太陽系の大きさにまで引き伸ばす倍率
      • \(0.1\mu \mathrm{m}\)が銀河系サイズに引き伸ばされる倍率
    • インフレーションを想定するといろいろな観測事実を都合よく説明出来ることは事実だが、その成因は不明

    Universe timeline

    インフレーションの観測計画

    インフレーション起源の原始重力波の探索

    • 宇宙背景放射の「偏光」を捉える
    • 光は横波 – 縦横の偏光の重ね合わせ
    • 温度の濃淡(密度の濃淡)は“E-mode偏光”を作る
    • インフレーション期の原始重力波は“E-mode”&“B-mode”を作る
    • “B-mode”偏光の検出:インフレーション存在の検証

    LiteBIRD

    • 世界的に唯一の宇宙背景放射偏光観測衛星
    • 宇宙研の将来ミッションの有力候補の1つ
      • 2019年5月21日に「戦略的中型2号機」に選定

    宇宙の将来

    地球のハビタビリティ



    • 誕生直後の太陽は現在よりも30%程度暗かった。
    • 現在から10億年後には地球はハビタブルゾーンを外れる。

    40億年後: アンドロメダ銀河との衝突

    アンドロメダ銀河との衝突合体

    100億年後の銀河系

    • 星を産まない「楕円銀河」
    • 衝突時に生まれた新しい太陽も100億年後には消失

    スターバースト銀河と銀河衝突

    NASA/ESA/STScI/AURA (The Hubble Heritage Team) - ESA/Hubble Collaboration/University of Virginia,

    Charlottesville, NRAO, Stony Brook University (A. Evans)/STScI (K. Noll)/Caltech (J. Westphal)

    星形成史

    宇宙の最後に残る星

    • 太陽の半分以下の重さの星はヘリウム核融合に至らず、水素の枯渇の後に冷えて一生を終える

    ただし低質量星の寿命は
    宇宙の年齢よりも長い
    ことに注意

    太陽の1/10の重さの星
    寿命2兆年、表面温度2900度
    \(\to\) 「赤色矮星」


    2900度はいわゆる「電球色」の温度。
    朝日や夕日、白熱電球やろうそくの温度に相当。

    生命居住可能な系外惑星!?


    軽い星の周りの惑星

    • 100kmを超える深さの海
    • いつも同じ方向に見える赤外線の「太陽」
    • 降り注ぐ強烈な紫外線・X線

    宇宙の加速膨張

    • 宇宙は加速度的に膨張を続ける
      • 「あと1400億年は安泰」だが...
    • 約1000億年後には隣の銀河団も「宇宙の果て」の外に
    • 夜空には赤色矮星が鈍く光るのみ

    宇宙の最期

    授業のまとめ

    授業のまとめ(と試験について)

    • 各回の授業スライドの先頭に「今回のポイント」を追記してあります。
    • これらのスライドを“自分の言葉”で説明出来る様になって下さい。
    • 専門用語や特に“公式”について暗記する必要はありません。
      • ネットで調べればいくらでも載っています。
    • ニュース等を聞いた際に「聞けば分かる」様になっておいて下さい。